患者に聞け

MCI(軽度認知障害)(1)パソコンの暗証番号が思い出せない…

暗証番号が思い出せない…
暗証番号が思い出せない…

 期待されているアルツハイマー型認知症の新薬「レカネマブ」(「レケンビ点滴静注200ミリグラム」「同点滴静注500ミリグラム」)の解禁が秒読み段階に入った。

 問題は価格で、一足早く承認された米国の設定は日本円でおよそ年間360万円……。

 日本の価格設定は10月初旬の時点で中央社会保険医療協議会が検討しているが、待ち焦がれている患者や家族も多い。

 神奈川県横浜市に住む藤原達夫さん(仮名.65歳=大手企業嘱託社員)もそのひとりである。

 コロナ感染が猛威を振るっていた3年前の2020年春、藤原さんは妻と一緒に市内の総合病院を訪れた。

 約30分を超える長い問診の後、担当医師から「軽度認知障害(MCI)です」と診断される。さらに、「簡単に言うと認知症の前段階です。日本には現在400万人ほどいますよ」と説明された。

 有名私大の法学部を卒業後、藤原さんは大手の情報産業企業に入社。3年前、中間管理職を最後に退職した。

 ひとり娘の長女夫婦は都心部に住み、藤原夫婦は横浜市内で愛犬1匹とともに暮らす。老後の生活に支障が起きない程度の蓄えもあった。

 人生をリタイアするには、まだ少し早い。古巣の嘱託社員として、自宅でパソコン操作をしながら、各種企業の経営分析などを行っていた。

 3年前のことだった。朝方、いつものように使い慣れたパソコンの電源を入れ、起動させようとしたとき、キーボードを叩く指が止まった。そらんじていた6ケタの暗証番号が思い出せないのだ。

 あれ、どうした!? 自宅の住所や電話番号と同じく、手帳に記録もしていない。藤原さんは頭を抱えて呆然としてしまう──。 (つづく)

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