若い頃のように熟睡できない…悩む高齢者は自身の「眠りの状態」をしっかり把握する

写真はイメージ(C)PIXTA
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 若い頃みたいにぐっすり眠れなくなった──。こんな不満を抱え、睡眠に悩む高齢者が増えている。睡眠は加齢とともに変化していく。高齢者が熟睡するためのポイントを東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏に詳しく聞いた。

 一般的に、高齢になると睡眠時間が短くなるといわれる。加齢により基礎代謝量が低下し、日中のエネルギー消費量も低下するため、使われるエネルギーが少なくなり、体が必要とする睡眠量が少なくなるからだ。

 また、睡眠をコントロールしている自律神経の働きも加齢によって衰えてくる。とりわけ、睡眠時に活発になる副交感神経の働きは、男性は30代、女性は40代から、10年で約15%ずつ低下していく。高齢になるに従って睡眠のバランスが大きく崩れてしまうのだ。

「こういった加齢の影響によって、われわれは年をとると自然と“早寝早起き”になってきます。とくに、脳や体の疲労回復のために重要だとされるノンレム睡眠のうち、深い睡眠の際に出現する『徐波睡眠』が15%前後まで減ってしまいます。老化による自然な変化なので、これで睡眠は十分という見方もあります。しかし、結果的に睡眠時間が短くなっているだけで、必ずしもそれが健康の証しというわけではありません。何より本人が『長い時間ぐっすり眠った』という満足感を得られないので、睡眠の悩みが生じるのです」

 梶本氏らは数年前から「ライフリズムナビ」というシステムを高齢者施設に設置し、6000~7000人の睡眠データを解析している。さまざまなセンサーによって、睡眠時間、睡眠レベル、離床時間、離床回数、心拍、呼吸といった生体情報を1秒ごとに24時間365日計測できる。その解析結果によると、「眠れない」と訴える高齢者の半数から3分の2程度は、実際は十分な睡眠をとれているという。本人が「眠れない」と感じているのは、「満足感」がないためなのだ。

■検査で客観的なデータがわかる

 睡眠に悩む高齢者が満足感を得られないのは、いびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)などにより睡眠の質が低下している可能性もある。まずは自身の睡眠状態を「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)」でチェックするといい。

 1泊入院して、頭、顔、首、胸、指、すねなどにセンサーを装着したまま就寝し、睡眠中の脳波、心電図、呼吸運動、動脈血酸素飽和度を計測する。睡眠障害の有無をはじめ、睡眠の質も把握できる。

「ただ、入院が必要なうえ費用が3割負担で2万~5万円ほどかかるので、まずは簡易型PSG検査を受けてみるのもいいでしょう。レンタル装置を使って自宅で行う検査で、就寝時に手首、指、胸にセンサーを装着するだけです。一部メーカーの装置は、レム睡眠とノンレム睡眠の割合など睡眠のリズム、睡眠の深さ、睡眠中の体の向きも調べることができます。SASなどが疑われる場合は保険適用となるので、費用は3割負担で3000円程度です」

 自身の睡眠の状態が客観的なデータではっきり示されるため、実際は眠れているのに満足感がない人も、検査結果を目にしただけで納得できるケースは多いという。

「もしも検査でSASなどの睡眠障害がわかれば、治療を開始すれば睡眠の質は改善が望めます。さらに、はっきりした検査結果が出ることで、実際は必要のない睡眠薬が処方されるケースを避けることができる。現状では、本人の『眠れない』という訴えだけで、安易に睡眠薬を処方する医療機関が少なくない。それにより、副作用で転倒や骨折、交通事故を起こしたり、集中力や注意力の低下、健忘、依存などのトラブルが生じる危険があるのです。検査で睡眠の状態が把握できれば、そうした無用なリスクの回避につながります」

 検査で睡眠の状態を把握したうえで、環境を整えて睡眠の質を上げ、さらに満足度を高めたい。

「就寝中は光は浴びないほうが望ましいので、照明も常夜灯も消して眠る。さらに、カーテンの隙間から差し込む光を防ぐため遮光カーテンを選び、隙間をテープや洗濯バサミなどで留めると効果的です。また、熟睡のためには布団の中の温度は『33度+-1度』が良いとされています。布団乾燥機を活用して寝具をしっかり乾燥させ、布団内の温度を適度に保つことを意識しましょう」

 年をとっても満足いくまで眠るには工夫が必要なのだ。

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