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整形外科領域で「幹細胞移植」が効果を十分に得られないケースとは?

(写真はイメージ)
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 再生医療法に基づく治療のひとつ「幹細胞移植」は昨今、非常に注目を集めている治療法です。幹細胞はさまざまな組織に分化する能力を持ち、大きく分けて多能性幹細胞と組織幹細胞の2種類があります。

 多能性幹細胞に含まれるiPS細胞は、京都大学の山中伸弥教授が2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞したことで広く知れ渡りました。現在、幹細胞移植でよく使われているのは、iPS細胞と同じく多能性幹細胞のひとつ、間葉系幹細胞です。脂肪組織内に存在し、整形外科的領域では骨、脂肪、軟骨になることが期待されます。

 しかし、この「期待」という表現がこの治療の不確実性を物語っています。幹細胞移植は万能細胞であることは先週お話ししました。スーパーエリートな軍隊とでもいいましょうか。

 しかし、軍隊に適切な指令を送る司令官がいません。万能細胞自身はまだ骨や脂肪、軟骨ではありません。Aという指令で骨、Bという指令では脂肪、Cという指令で軟骨になる。ただAやBやCの指令を特定の司令官が送るのでなく体のどこかから送られてくるのを万能細胞は待つことになります。

 そして、膝の軟骨損傷で軟骨の再生を期待して幹細胞を投与しても、Cという指令がないとダメなのですが、その指令が必ず発令されても膝になるとは限りません。そのため、幹細胞移植を受けたものの、効果が十分に得られないというケースが起こり得るのです。自費診療ですので、出費の額と治療効果が釣り合わなかった、となりかねません。

 特に軟骨損傷では、程度がひどすぎる場合には軟骨が元に戻ることはほぼ見たことがないといわれています。次回は脂肪幹細胞の臨床成績に関する研究を紹介します。

森大祐

森大祐

整形外科全般診療に長年携わる。米国トーマスジェファーソン大学で人工肩関節の臨床研究を行い、2000例超の肩関節手術を経験。現在は京都下鴨病院で肩関節や肘関節、スポーツ障害患者に診療を行う。サイトで整形外科疾患の情報を発信。

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