近年、「収入」と心臓病の関係に関する研究が盛んに行われています。すでに、高収入の人は、低収入の人と比べて平均余命が長いことが報告されていますし、収入が高い人は、低い人と比べて心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患のリスクが低いこともわかっています。
また米ハーバード大の研究では、6年間の期間に収入が減少すると、その後17年間にわたって心臓血管疾患のリスクが高くなると報告しています。この研究では米国の4地域(ミシシッピ州、メリーランド州、ミネソタ州、ノースカロライナ州)に住んでいる約9000人を対象に、1987~89年と93~95年の平均6年間にわたって収入を調査し、収入が50%以上減少した人、変化がなかった人、50%以上増加した人の3つのグループに分類し、心臓血管疾患の発症リスクを比較しています。
その結果、平均17年間のフォローアップ中、収入に変化がなかった人と比較して、50%以上減少した人は心臓血管疾患のリスクが17%上昇していました。一方、50%以上増加した人は同リスクが14%低下していたといいます。やはり、高収入では心臓血管疾患リスクは下がり、低収入ではリスクが上がるという結果です。
収入と心臓血管疾患にはっきりとした直接的な因果関係があるわけではありません。しかし、考えられる要因はいくつもあります。
まず、収入による生活習慣の変化、とりわけ食生活の違いです。心臓血管疾患の代表的なリスク因子である「高血圧」「高血糖」「高コレステロール」「肥満」といった生活習慣病は、いずれも普段の食生活によって左右されます。収入が高い人は日頃から、肉や魚、野菜や果物、乳製品など、主菜と副菜を満遍なく摂取できる栄養バランスのとれた食事をしている傾向が高くなります。
一方、収入が低い人は、手軽にお腹を満たせるようなインスタント食品、ファストフード、丼物、揚げ物といった脂質や塩分、糖質が多い高カロリーな食事に偏りがちになります。これが、高血圧、高血糖、高コレステロール、肥満を招き、心臓血管疾患につながるのです。
■睡眠や運動習慣の違いも影響
睡眠の違いも大きく影響していると考えられます。収入が低い、あるいは収入が減っている人は、生活の不安からなかなか寝付けなかったり熟睡することができず、睡眠導入薬に依存しているケースも少なくありません。
睡眠不足になると交感神経が優位の時間がそれだけ長くなり、神経伝達物質のアドレナリンやストレスホルモンのコルチゾールが大量に分泌されて、心拍数が増加したり血圧が上昇して心臓の負担が増大します。また、血糖値やコレステロールの数値も高くなって心臓血管疾患のリスクをアップさせるのです。
また、低収入や極端な収入減少、さらにはそこからの生活不安は大きなストレスになります。ストレスはやはり交感神経の優位を招き、心臓にとって大敵となる高血圧、高血糖、高コレステロールといったリスク因子を揃える要因になります。
さらに、収入の差は、日頃の健康意識の差に直結します。収入が低かったり、どんどん少なくなってきた人は、日々どう暮らしていくかを考えるだけで精いっぱいです。金銭的な余裕がないこともあって、自分の健康については二の次になっているケースが多いといえます。
一方、収入が高く安定している人は健康意識が高く、普段からジムに通って運動をしたり、サプリメントや健康食品を購入するなど、体に良いとされる習慣を取り入れ、積極的に健康への投資を行っている傾向があります。
実際、収入と運動習慣や心肺機能には関連があるとする日本の研究があります。「東京の労働者、社会経済的地位が運動習慣と心肺機能に関連」という研究です。
東京、埼玉、千葉、神奈川のいずれかに在住で、1日6時間以上、週3日以上働いている20~65歳の男女9406人を対象に調査したところ、経営者(41.5%)→正社員(36.7%)→パートタイム労働者(27.8%)の順に運動していることがわかりました。また、年齢、性別、BMI、身体活動量から最大酸素摂取量(心肺機能)を算出し、社会的因子の関係を調べたところ、こちらも、経営者→正社員→パートタイム労働者の順になっていました。
さらには、年収上位3分の1のグループは、下位3分の1のグループに比べて運動習慣がある確率が76%高く、心肺機能が劣る確率が47%低いこともわかったといいます。つまり、高収入の人は普段から積極的に運動していて、それだけ心臓が守られているということです。
こうした研究結果を考慮すると、はっきりした科学的な根拠はまだないとはいえ、収入と心臓疾患の関係を軽視することはできません。
貧困化が進み、生活に苦しむ人が増えているいまの日本で、いきなり収入をアップさせるのはなかなか難しいでしょう。だからこそ、できる限り心臓病リスクをアップさせないような生活習慣を意識しておくことが大切なのです。
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