現在の日本の医療体制では、病院は大きく「急性期」「回復期」「慢性期」に分けられています。病気やケガで手術などの治療を行うのが急性期病院、病状が落ち着いた段階で障害が残った場合にリハビリを行い、再発予防を確立するのが回復期病院、退院後の再発予防とケアを継続するのが慢性期病院です。
回復期病院はもちろん、急性期病院や慢性期病院・施設(本格的なリハビリが可能なのは老健=介護老人保健施設のみ)でも、リハビリは行われています。リハビリを含めた観点から、それぞれより良い施設を選ぶためのポイントを詳しくお話ししていきます。
まずは急性期病院です。言うまでもありませんが、急性期病院の役割は病気やケガの治療です。リハビリテーション科などでリハビリは行われていますが、あくまで“治療プラスアルファ”という位置づけになっているところがほとんどです。ただ近年は、主にがん治療の分野で、手術の結果をより良好にしたり、回復や退院をより早くするために、術前リハビリを強化する病院が出てきました。一方、最先端リハビリ治療を行っている急性期病院もあります。
簡単に紹介すると、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)で特定の脳部位を直接活性化して麻痺や言語を回復させる治療コースがあります。また、麻痺した上肢を使える手にする訓練のために、麻痺していない上肢をミトンなどで拘束するCI療法の治療コースがあります。さらに、ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)により重度麻痺肢を回復させる治療コースなどもあります。
さて、病気になると、患者さんの体力と筋力は弱ってきます。弱ってくると病気も進んでしまうので手術しましょうという流れになります。しかし、体力や筋力が弱った状態では、負担が大きい手術に耐えられなかったり、回復が遅くなって予後は悪化します。術後の結果を改善するため、手術の前に2週間ほど集中的にリハビリを行い、体力と筋力をいったん引き上げてから治療に臨むという考え方が広まってきているのです。実際、術前リハビリで体力と筋力を底上げしておくと、回復が良好になって早期に退院できるというデータがいくつも報告されています。
発症から手術までに時間的な余裕がない脳や心臓の疾患では難しいのですが、がんは比較的“待てる”ケースが多いため、術前リハビリが重要になります。とりわけ「手術成績をアップさせるためには術前リハビリが必要だ」と気づいている医師は、しっかりしたリハビリの体制を病院内で構築しています。現在、がんセンターなどの拠点病院では、がん治療の成績は全国的に似通ってきています。そうした治療成績をさらに伸ばすためには、リハビリが欠かせないと理解が進んできたのです。
■主治医と現場スタッフの連携が重要
もちろん、急性期病院で行われる術後のリハビリも大切です。がんや脳、心臓などの疾患で治療を受けた後、回復期病院に移るまでの期間に実施されるリハビリです。
かつては、手術後は安静にしたほうがいいという考え方が主流でしたが、いまは脳でも心臓でも、手術や投薬治療によって病気のコントロールがついて病状が安定した段階で、早期にリハビリを開始するケースが増えています。世界的にも、とくに脳や心臓の分野では、手術後24時間以内、病気の状態が悪かった場合でも48時間以内にリハビリを開始すると回復が早くなることが知られていて、日本でも取り組む病院が増えているのです。
まず、手術後は寝たきりにさせることなく、座らせるところから入ります。床にかかとをつけて、背もたれに頼ることなく座れるというところまで進めて体に重力を感じさせれば、立つ、歩くといった最低限のリハビリも迅速に行えます。
ただ、早期にリハビリを開始する場合、患者さんの状態が悪くならない程度に実施しなければなりません。そのためには、主治医と、現場で実際にリハビリを担当する理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の連携が欠かせません。PT、OT、STは医師ではありませんから、病気についての詳しい専門的な知識は持ち合わせておらず、主治医から「あとはそっちでやっておいて」と指示されるだけでは、怖くて適切なリハビリは行えないのです。良質で治療成績が優秀な急性期病院では、少なくとも一度は主治医とスタッフが合同で患者評価を行い、リハビリの方針を決めています。
初めにお話ししたがん治療における術前リハビリや、術後の早期リハビリが適切に実施されている急性期病院は、治療成績が良く入院期間も短いことが数字ではっきり示されています。そういう急性期病院なら、安心して治療を受けられると判断していいでしょう。
正解のリハビリ、最善の介護