これまでお話ししてきたように、脳疾患の治療はうまくいき、脳画像もそこまで深刻な状態ではないのに、寝たきりになってしまう患者さんがいます。その場合、原因は前回取り上げた廃用症候群だけではなく、脳内ホルモン(神経伝達物質)の分泌のバランスが崩れ、ドーパミンが不足して体を動かせなくなっているケースがあります。
ドーパミンは、意欲、運動、快楽のコントロールに関わる神経伝達物質で、不足すると筋肉がこわばる筋固縮などの症状も現れます。体全体がカチカチに硬直して動かなくなり、寝たきり状態になってしまうのです。
そうした患者さんの場合、クスリを使いながらリハビリを行うことで動けるようになり、運動機能や能力を取り戻して日常生活を送れるようになる可能性があります。
以前、脳挫傷による重度の痙縮(自分の意思とは関係なく筋肉が収縮し関節が硬くなる状態)があり、寝たきりだった50代の男性患者さんが来院されました。脳外科治療によって、脳損傷そのものは深刻な損傷ではなく、重い麻痺もありません。しかし、脳が出している「筋肉を収縮させる指令」と「筋肉を弛緩させる指令」がバランスよく伝わらなくなり、体を伸ばせなくなって屈曲してしまっているのです。つまり、座れない、立てない、歩けない……という状態で、覚醒状態も低下していました。無理に体を伸ばそうとすれば痛みが出るので、積極的な立たせるリハビリが行えませんでした。この状態が2週間以上続くなら、改善は望めません。
正解のリハビリ、最善の介護