正解のリハビリ、最善の介護

より良い「回復期病院」の見極め方はあるのか?

「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏
「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

 急性期病院で病気やケガの手術、治療を受け、状態が落ち着いた段階で、障害が残っている場合は、少しリハビリが始まっていても、本格的なリハビリを受けるため「回復期病院」に転院することになります。これまでお話ししたように、患者さんに「もっと良くなりたい」「しっかり回復して社会復帰したい」といった意思がある場合、回復期病院でのリハビリがその後の人生を左右するくらい重要です。

 脳卒中ならリハビリ病院を考えるでしょうが、脊椎の圧迫骨折や大腿骨近位部骨折の術後、人工関節術後では、治療した病院に数カ月いて、直接自宅退院することがあります。その際に、歩き方がおかしくなったり、痛みが残ったりして、自宅での生活の状態が低下して受診されるケースをよく経験します。軽症の方は短期間で回復して早期に自宅退院ができますので、骨折や術後も回復期リハビリと退院後の外来リハビリで納得できるまで回復することが大切です。

 回復期病院へ移るとなったとき、急性期病院からリハビリ転院先を薦められるのが一般的です。その際、薦められた施設で良いのかを患者さんやご家族が判断する場面が訪れます。適切なリハビリを受け、「人間力」を取り戻すために、より良い回復期病院を見極めるポイントを紹介します。

 回復期病院を選ぶ大前提として、まずは「自宅から近い(それほど遠くない)施設」というのがポイントのひとつです。それはリハビリ病院退院後に外来リハビリ通院が必要になるからです。さらに、回復期病院では最長6カ月の入院期間がありますから、患者さんの支えとなるご家族が通いやすいという点は大切です。

 また、「病院内がきれいできちんと整理整頓されているか、清掃が行き届いているか、変な臭いがしないか」も重要です。そんな最低限の原則を継続できていない施設も意外と多いのです。

 そのうえで、より良い回復期病院を選ぶ際には「しっかりと適切なリハビリを実施してくれるのか」を確認してください。現在、日本の保険診療の制度ではリハビリ時間は「1日最大3時間(20分×9単位)」と定められています。これを週7日間、毎日きちんと実施してくれるのかを確かめましょう。

■「日中は起こしてくれるのか」を確認する

 次にチェックするポイントは「リハビリの3時間以外の起きている時間の過ごし方」です。たとえば、朝食が朝8時~、夕食が夕方6時~だった場合、朝食を終えた9時~夕食の6時まで9時間の時間があります。この日中9時間の中で、昼食の1時間とリハビリの3時間を除いた5時間を患者さんにどう過ごしてもらうか。「リハビリを含めて日中は9時間しっかり起こしている」施設と、「リハビリと食事以外の5時間、就寝時間はすべてベッドに寝かせている」施設では、回復の度合い、成績が大きく変わってくるのです。

 これまでもお話ししたように、適切なリハビリでは「起こす」ことが重要なポイントになります。日中はベッドには戻さず、起こす(座らせる、立たせる、歩かせる)、さらにコミュニケートすることによって、脳が刺激を受け、身体機能が活発になり、筋力や体力が上がっていって、人間力が回復していきます。ですから、より良い回復期病院を見極める際は、病院側に「1日のリハビリ3時間以外の時間はきちんと起こしてくれるのでしょうか」と聞いて確認することがとても重要なのです。

 ちなみに、就寝時間とリハビリの3時間以外は患者さんをベッドに戻さず起こして過ごさせる入院生活を管理するのは看護師と介護士の役目です。そのため、日中はきちんと起こしてくれる回復期病院は、リハビリの主治医と現場スタッフの連携がしっかりとれているという判断材料にもなります。

 より良い回復期病院を見極めるためには、「1日3時間、週7日毎日リハビリを行ってくれるのか」「日中はベッドに寝かせることなく起こしてくれるのか」のほかにも重要なポイントがあります。それは「リハビリの主治医の力量」です。

 適切なリハビリを行うためには、その患者さんの病態を診て、リハビリによってどこまで回復できるのか、能力と機能をどれくらいまで取り戻せるのか、予測できる“最高到達点”を主治医が的確に把握していなければなりません。その予測を基に計画を立てリハビリをスタートするのですが、リハビリを開始した後、当初の予測よりも回復の度合いが上がってこないケースが起こります。そうなった場合、主治医は、現場で実際にリハビリを担当する理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、看護師のチームに指示を出し、患者さんの回復を引き上げるために修正する必要があります。しかし、主治医が「その患者さんはどこまで良くなるのか」を把握できていなければ、的確な修正は行えません。そのまま患者さんの回復が上がらない場合でも、「この程度で仕方がない」で終わってしまいます。

 では、主治医はどういった修正を行っていくのか。次回以降、詳しくお話しします。

酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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