正解のリハビリ、最善の介護

回復期病院を選ぶ際に「主治医の力量」が重要なのはなぜか

「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏
「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

 より良い回復期病院を見極めるためには「力量のあるリハビリ主治医が在籍しているかどうか」が重要なポイントになります。主治医には、患者さんの病態を診て、リハビリでどこまで回復できるのかを予測し、目標に到達させる力量が求められます。リハビリを始めたものの、当初の予測より回復の度合いが上がってこない場合、的確に修正してペースを上げる必要があるからです。この第1段階として回復期リハビリ病院に入院して最初の2週間で、意欲的なリハビリ治療ができる信頼関係と全身状態に整えられる医師力が必須になります。患者さんの全身状態が不安定ではリハビリも進みません。

 修正の方法はさまざまありますが、そのひとつが「睡眠障害」への対処です。これまでお話ししてきたように、リハビリでは「夜の就寝時間以外、昼間は起こす」ことが重要です。1日最大3時間(20分×9単位)と定められているリハビリ以外の時間のほとんどをベッドで寝て過ごしていると、昼寝をしてしまい、回復の度合いは落ちてしまうのです。

 患者さんの中には、生活リズムのバランスが崩れて昼夜が逆転したり、睡眠する体力が低下して、夜に十分な睡眠をとれず、昼間にうとうとしっぱなし、といったケースがあります。するとリハビリによる回復のペースは上がってきません。

 こうした場合、「なぜ昼夜逆転が起こっているか」を主治医が的確に見極める必要があります。考えられるのは、「昼寝をしている」「夜に眠くならないから十分な睡眠がとれていない」ケースです。そうした患者さんには睡眠障害の治療を行います。睡眠薬を使った治療より、「夜に眠って、朝に起きる」という本来の、日中に覚醒しているリズムをつくっていくのです。

 患者さんは眠れる体力がない状態になっているので、やみくもに睡眠薬を使うだけでは昼間も眠ってしまいます。回復期リハビリ病院への入院後は2週間以内に夜に眠れるリズムと体力をつくることが基盤になります。最初の2週間の離床と体力向上プログラムで睡眠障害が改善しない場合は、主治医は「夜にはしっかり眠れる」ための投薬管理を見極めます。ただ、主治医は24時間ずっと患者さんについているわけではありません。ですから、24時間患者さんと接している看護師と連携して、睡眠障害のタイプを把握したうえで的確に対処することが重要です。

 また、「痛みがあるから夜に眠れない」という患者さんもいます。痛みのコントロールはリハビリを行う上で最も重要であり、睡眠障害の原因を取り除かなければなりません。

■「昼間に起こす」治療が必要になる

 ほかに「精神・高次脳機能障害」によって睡眠に影響が出ているケースがあります。脳の一部が損傷したために精神機能が障害された状態で、不穏やせん妄を起こして夜に眠れなくなることがあります。この場合、睡眠薬だけではコントロールが難しく、抗精神病薬をプラスした治療が必要です。神経伝達物質のドーパミンの働きを抑えることによりせん妄などの症状を改善し、夜に眠れるようにします。

 ただ、睡眠薬と同じく抗精神病薬も使いすぎると昼間も眠くなってしまいます。かといって少なすぎると夜に眠れないので、適切な頃合いを見定めなければなりません。

「精神科は専門外なので……」などと言う主治医では対応できず、リハビリもうまくいきません。さらに「覚醒障害」によって睡眠のバランスが崩れているケースもあります。「夜もそこそこ眠っているけれど、昼間も眠っている」という患者さんがこれに該当します。この場合、「昼間に起こす」治療が必要で、2つの方法があります。

 ひとつは、抗重力位の姿勢をとる=立たせて脳に重力を感じさせる方法です。抗重力位の姿勢では脳が刺激され、患者さんの覚醒が上がっていきます。そのため当院では、患者さんが入院してから2週間は迅速に立たせて歩かせ、コミュニケーションをとって脳に刺激を与えながらリハビリを進めていきます。

 これで覚醒しない患者さんは、本質的な覚醒障害があると判断できます。脳内のホルモンや神経伝達物質のバランスが崩れている状態です。こうしたケースでは薬物治療を行います。先ほども触れたドーパミンの分泌が少ないと活力が落ちて覚醒が低下します。ですから、ドーパミンを賦活する薬を使います。

 また、記憶や集中に関わる神経伝達物質のアセチルコリンが低下して、覚醒障害が生じている患者さんもいます。この場合は、アセチルコリンを刺激する抗認知症薬を使って活力を上げる治療を行います。

 このように、障害を起こしている原因を見極め、適切な治療を実施して覚醒を上げると、意欲的に体を動かすリハビリができるようになります。すると、昼間に体が疲れるので夜にしっかり眠れるようになります。主治医の対処によってリハビリによる回復の度合いを上げることができるのです。

酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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