手術できない「ステージ3の肺がん」で東洋医学の専門家が打った手は?

奥田久幸さん(提供写真)
奥田久幸さん(提供写真)

 東洋医学の専門家が、がんを発症したらどんな治療を受けるのか--? その問いに答えてくれたのが、日本医学柔整鍼灸専門学院(東京・高田馬場)の校長、奥田久幸さん(70歳・柔道整復師、鍼灸師)だ。

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 奥田さんが進行性の肺がんと診断されたのは3年前。たばこを吸わず、人一倍健康に気を使っていたこともあり、肺がん宣告は青天のへきれきだった。

「ある時、咳とともに血痰が出て、最初は単なる風邪か軽い喉の炎症ぐらいに思っていたんです。内科のかかりつけの医師に相談したら、同じ見立て。しかし、1カ月経っても咳と血痰が治らなかったので、それじゃあCTを撮りましょう、となりました。すると、肺がんの可能性が高い、という結果が出たのです」

 紹介状を書いてもらい、大学病院で精密検査。右の肺に6センチのがんが見つかり、ステージ3A。転移はしていなかった。患部の場所が心臓の近くで、手術はリスクを伴うため断念。放射線と抗がん剤による治療を受けることになった。

■自分を実験材料にするいい機会だと考えた

「西洋医学の治療と並行し、私は東洋医学の専門家ですから、がん宣告を受けたその日から、これは自分を実験材料に鍼の効果を試すいい機会だと思い毎日、自分で鍼を打ち始めました。その時に行ったのがバイデジタルOリングテストです」

 40年ほど前にニューヨーク在住の大村恵昭医師が考案、学会発表した、筋の緊張を利用して生体情報を感知する検査手技だ。日本全国に広がっており、治療に活用する医師も少なくない。

「腕を伸ばして指を丸め、指先を動かして筋肉の微妙な動きの違いを見ながら、ツボを探していくんです。これをやると今現在、自分のどこが弱っているかが分かります。そうやって探し当てたツボへ、鍼を打ちました。ちなみにこのツボは人によっても違うし、同じ人でもその日によっても変わります」

 バイデジタルOリングテストによるセルフ鍼は1カ月半に及ぶ入院中も継続した。

「病院のベッドの上で、夜9時の消灯後30分ほどバイデジタルOリングテストをしてツボの場所にマジックのマーカーで印を付ける。全部で10カ所にこそっと鍼を打っていました」

 鍼を打ちながらの放射線と抗がん剤治療は、考えていた以上の効果をもたらした。

「吐き気や頭髪が抜けるといった抗がん剤の副作用を抑える効果があることを改めて確信しました。ですから憂鬱にならず、気力が養われたことは大きかったです。一般の方にも、入院中は難しいですが、退院後は通院しながら、鍼灸を受けることをお勧めします」

 鍼、放射線、抗がん剤のトリプルで、がんは縮小した。

「たまたま私の場合は、組み合わせが良かったのでしょう。放射線と抗がん剤の治療を終えた後は、週1回の通院で、点滴による免疫療法を続けました。ところがしばらくて仙骨と右脳へのがん転移が発見されてしまったんです」

 実は、がんの縮小に安心して、奥田さんは退院後、鍼をあまり打たなくなっていた。

「右脳には2ミリの脳腫瘍ができていました。それで、ガンマナイフという放射線を1点に集中して当てる権威の医師のクリニックを大学病院から紹介してもらい、2泊3日の入院で1回の照射を受けました」

 それからは転移がなく、タグリッソ(一般名オシメルチニブ)という、がんの再発を抑える薬を毎日服用している。

「仙骨と右脳に見つかった転移がんは、縮小はしたけど消えたわけではありません。鍼灸は毎日続けています。そのおかげか、最近髪が黒くなりました。いまはがんを取り除くのでなく、がんを抑えて暴れないように付き合う“がん友”という考え方で生活しています」

 あくまでも奥田さんの経験談ではある。しかし、こういう手もあるということだ。

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