独白 愉快な“病人”たち

「これは治らんよ」と告げられ…春風亭昇々さん脳梗塞との苦闘

春風亭昇々さん
春風亭昇々さん(C)日刊ゲンダイ
春風亭昇々さん(落語家/39歳)=脳梗塞

 高座の枕(落語の本題に入る前の小噺)では、「実は脳梗塞になりました」と話しているんですけど、こうしてちゃんと取材していただくのは初めてです。

 それは2022年9月のことでした。仙台で落語会がありまして、それがツアー最終日だったんです。無事に終わり、打ち上げで「乾杯!」とビールを飲み始めたら、視界の左側半分が急に見えなくなっていました。真っ暗ではなくモヤモヤというか、テレビの砂嵐のようなザーザーした感じです。

 私、小学5~6年の頃からの片頭痛持ちでして、その前兆として視界がモヤモヤチカチカする症状があり、慣れっこでした。その症状のことを「閃輝暗点」というのですが、乾杯のそのときも「片頭痛の前兆がきたな」と思っていたんです。

 でも、いつもなら30分ぐらいで消える閃輝暗点がずっと治らず、打ち上げが終わり、新幹線に乗っている間もずっと左側が見えないままでした。帰宅してもふらふらするし気持ち悪いし、片頭痛もすごかったので、奥さんに「明日も見えなかったら病院に行ってくるわ」と言って寝ました。脳梗塞だと分かっていたらそんなのんびりしていなかったんですけどね。

 朝になっても視界が悪かったので朝イチで病院に行ってみると脳神経外科を勧められ、MRIを撮ることになりました。MRIは子供の頃から片頭痛の診察で何度も撮影していましたから、「どうせまた何でもないんだろう」と思っていました。でも、2回も撮影されて診察室に戻ると、先生が開口一番「脳梗塞になってるよ」と言うではありませんか。「後頭部の血管が詰まって白くなって壊死している。これは治らんよ」と告げられて、検査入院をするよう言われました。

「でも今夜、落語会があるので……」と先生にお願いすると、たまたま祝日だったこともあり、検査を前倒ししてくださって、最後に心臓を24時間観察するホルダー心電図というものをつけられました。なんとか無事に落語会に参加することができ、さまざまな検査の結果で心臓病が原因の脳梗塞ではなかったことも判明。その後は家のそばの大学病院に通って、毎回違う検査をしました。

 一番つらかったのは経食道エコー検査でした。心臓の裏側を食道側から観察するためのもので、ヘビみたいな太い管をのみ込むんですけど、息が苦しいし、噛んじゃいけないし、唾をのみ込むのもダメで、唾液は専用の受け皿に出すように言われます。しかも、それが50分も続いて、あんなに苦しいことはなかったです。

「心臓の穴を塞いだら片頭痛がなくなった」という春風亭昇々さん
「心臓の穴を塞いだら片頭痛がなくなった」という春風亭昇々さん(C)日刊ゲンダイ
心臓に穴が開いていた

 検査の結果、僕の心臓には穴が開いていることが分かりました。「卵円孔」といって、生まれたときはすべての人にある穴です。普通は生後数カ月で閉じるものが、4~5人に1人は大人になっても開きっぱなしの人がいるんだそうです。今回、僕が脳梗塞になったのは、おそらく脚にできた血栓が卵円孔を通って脳の血管を詰まらせたのだろうとのことでした。

 再発防止のために同じ年の11月には「PFO閉鎖術」という卵円孔を塞ぐカテーテル手術をしました。正直、怖かったですよ。全身麻酔だと聞いていたのに、前日になって局部麻酔だと言われるし、先生方の声は聞こえるし、「この大きさじゃダメだ」と蓋の大きさを途中で入れ替えたりして……。意識があるから、何となく痛くなってくる気がするんですよね。麻酔は何度も刺されました。

 手術の時間は1時間半ぐらいでした。手術室を出る前に「親御さんと奥さんとお子さんが待ってますよ」と言われ、ぐったりしていたら明日も両親がお見舞いに来ちゃうと思ったので、顔が見えた瞬間に「改造人間の手術は終わった。仮面ライダーになったぞぉ!」とはしゃぎました。おかげさまで、両親はそれきり来ませんでした(笑)。

 午前中1番の手術だったから夕方には多少歩けましたし、翌日には違和感も何もなく普通に歩けました。入院から5日目には無事退院。目は見えないままで治らないと言われていたんですけど、退院してから徐々に見えるようになりました。

 手術は心臓の卵円孔を塞いだだけなので目とは関係ありません。でも、3~4カ月もすると、少し見えないところがあるくらいで、普段は特に気にならないくらいまで回復しました。今となっては感覚的には99.9%は見えているので、ありがたいかぎりです。

 脳梗塞の再発予防のために血をサラサラにする薬と胃薬を1年間服用しましたが、今は何も飲んでいません。よかったのは、心臓の穴を塞いだら片頭痛がなくなったこと。因果関係は不明ですが、そういう患者は多いと聞きました。まだ脳梗塞から1年半なので、これからどうなるか分からないですけどね。

 たまたま僕は後頭部の血管に血栓が飛んで目に症状が出ましたが、半身不随や言語障害になっていたかもしれないと考えると、本当に幸運でした。毎朝、起きるたびに何事もないって幸せなんだなと思い、つくづく“健康だけでいいんだな”と学びました。

(聞き手=松永詠美子)

▽春風亭昇々(しゅんぷうてい・しょうしょう)1984年、千葉県出身。2007年に春風亭昇太に弟子入り入門。11年に二つ目、21年に真打ちに昇進した。現在、文化放送配信の「はまきんっ」に金曜隔週でレギュラー出演。千葉テレビ「モーニングこんぱす」では水曜メインパーソナリティーを務める。ユーチューブチャンネル「アバンギャルド昇々」。

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