独白 愉快な“病人”たち

卵巣嚢腫で手術を受けた渡辺加和さん「悪性という言葉を聞いただけで…」

加藤加和さん(提供写真)
渡辺加和さん(タレント/33歳)=卵巣嚢腫

 昨年10月に左の卵巣にできた腫瘍を切除する手術をしたのですが、12月には結局、左の卵巣と卵管を全摘しました。

 始まりは2017年にわかった「子宮内膜症」でした。この年、ありがたいことに所属する「CYBERJAPAN DANCERS」が売れ始めて、劇的に生活が変わって急に生理がこなくなったんです。それまでは毎月しっかりあったので「おかしいな」とは思ったんですけど、「そのうちくるでしょ」と気楽に考えていました。でも、半年連続で生理がなくて、さすがに産婦人科を受診したのです。

 エコー検査で子宮内膜症とわかりました。先生のお話では、生理でまっすぐ降りてくるはずの経血が横に行ってたまっているとのこと。さらに、卵巣に3センチほどの腫瘍も見つかっていました。でも、「見る限り悪いものではなさそう」とのことで経過観察になりました。

 定期的に産婦人科に通い、子宮内膜症の治療としてピルを毎日欠かさず飲むことになりました。1シート4週間分の薬があって、3週間分はピルですが、最後の1週間分はピルではないダミーのような錠剤です。それを毎月繰り返すことで生理の周期をつくるのだと言われました。薬はあまり飲みたくなかったんですけど、妊娠できなくなるのは困るので、月に1回、ピルをもらうため通院しました。

 でも卵巣の腫瘍が3センチから4センチ、さらに5センチと年々大きくなってきて、昨年6月には「今までは良性っぽかったけれど、ちょっと気になってきたから大学病院へ行ってください」と言われたのです。ゾッとしました。

 大学病院でMRIとCT検査をした結果、7センチに肥大していることがわかり「卵巣嚢腫」と診断されました。6センチでもう取った方がいい大きさらしく、しかも「腫瘍は良性ではなさそうなので早く取ったほうがいい」と言われ、「手術?」と頭が真っ白になりました。先生は夏には手術をしたかったようですが、夏はCYBERJAPAN DANCERSの活動が忙しい時期です。お願いして手術は10月初旬にしていただきました。

 手術は生まれて初めてです。酸素マスクをされて、手の甲に針が刺さって、麻酔が全身に入り始めた瞬間、手の甲がものすごく痛かったのを覚えています。でも、3回まばたきをしたらもう記憶がなくなりました。

「渡辺さん、終わりましたよ」という声が鮮明に聞こえて、目が覚めました。でも、目を開けても水の中にいるみたいで何も見えないし、喉に管が通っていたので声も出せません。そばで姉が泣いているのがわかって、安心させてあげたかったのに1ミリも体が動きませんでした。

 麻酔が覚めたあとは痛みとの闘いでしたが、なんとか乗り越え、2週間ぐらいで退院もしてホッとしていたんです。ところが3週間後に、切除した腫瘍の病理検査の結果を告げられ号泣しました。「境界悪性」というもので、良性とは言い切れない悪性との境目だということでした。「悪性」という言葉を聞いただけで、ものすごく怖くなりました。

加藤加和さん(提供写真)
2度目の手術は桁違いに痛かった

 じつは手術前に、先生から「卵巣を見て、怪しかったら卵巣も取るかもしれませんが、大丈夫ですか?」と言われたんです。でもそのときに「なるべく残してほしい」とお願いしたので、残してくれたのです。それなのに、結局は取らなければならなくなりました。会話の端々に「抗がん剤はまだ飲まなくてもいいですけど」といった内容が入ってきたので、「え?がんですか?」と聞くと、「可能性はゼロではないから片方を取りますね」となったわけです。何年かしてがんになる可能性があるなら、もう取るしかないと思いました。

 12月に大事なミュージックビデオの撮影があったので、それを終えた翌々日から入院して2度目の手術を受けました。

 2度目の方が桁違いに痛かったです。目覚めた瞬間にお腹全部が痛すぎて、「やばいやばい」「こわいこわい」「どうしようどうしよう」が止まりませんでした。体は氷みたいに冷え切っていて、寒さと痛さの限界でした。でも、例によって声が出せません。辛うじて動いた指先で、そばにいた姉の手を握って寒さを訴えると、なぜかわかってくれて温かい飲み物で手や脚を温めてくれました。

 子宮内膜症で通院していた頃には、「子供がほしいなら不妊治療からスタートさせないといけない」と言われていたんですけど、腫瘍を取ったら、7年間“自力”では来なかった生理がきたんです。おかげさまで不妊治療はとりあえずお預けになりました。

 病気になって学んだのは、違和感があったら病院に行くことです。ネットではなく、納得いくまで先生に教えてもらった方がいい。私は今、ささいなことが幸せです。仕事ができることも、好きなものが食べられることも、かわいい服が着られることも、外を歩けることも最高に幸せ。これに気づけるか気づけないかで人生の豊かさは全然違う。今は全部に「ありがとうございます」って感じです。

(聞き手=松永詠美子)

▽渡辺加和(わたなべ・かずえ) 1990年、大阪府出身。ファッションモデルとして雑誌やファッションショー、Webなどで活躍。2012年から「KAZUE」名義でゴーゴーダンスグループ「CYBERJAPAN DANCERS」のメンバーとしても活動している。

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