独白 愉快な“病人”たち

声をかけられた途端にぶわっと涙が…立花理佐さん直腸がん手術を振り返る

立花理佐さん(C)日刊ゲンダイ
立花理佐さん(女優/52歳)=直腸がん

 2カ月ぐらい前から急に体調が良くなって、今、すっごく元気なんです。お仕事もやる気になってきたところ。「ビー・バップ(ハイスクール)」の共演者や女子プロレスラーのお友達、歌手仲間たちが引きこもっていた私を根気強く誘ってくれて、外に連れ出してくれたおかげです。

「直腸がん」で手術をしたのは2020年10月でした。受診したのはコロナ禍で外出自粛が呼びかけられた同年の5月。でも、その数年前から、行っても出ないのに頻繁にトイレに行きたくなることが続いていました。そのうち、お尻に痛みを感じるようになったのです。でも「痔かな」と思って放置していました。

 病院に行くのもためらわれた時期でしたが、私が痛みを訴えていたので、お店(そば屋)の営業を自粛して家にいた主人が、「病院に行こう!」と連れて行ってくれたのです。

 そこからはまるでジェットコースターのようでした。女性医師が患部の診察を始めると、すぐに「生検しましょう」となり、組織を採られました。1~2週間すると「すぐに来てください」と呼び出され、「がんです」と告げられました。

「どこがいい?」と大きな病院をいくつか紹介されて、家から通いやすい某大学病院を選んで受診しました。通院でCT、MRI、PETなど、いろいろな検査を受けましたが、がんになった実感がなく、ずっと他人事のように感じていました。お尻が痛いだけでその他の症状は何もなかったので……。

 ただ、内視鏡検査は痛すぎました。検査の間、抱きしめてくれている看護師さんに「泣いてもいいのよ」と言われ、小学生みたいにワンワン泣きました。いっそ気絶したかったくらいです。検査室から出ても泣きやむことができなかったので、順番を待っている人たちは「何をされるんだろう?」と、さぞかし不安になったと思います(笑)。

 直腸がん(術後にステージ3だったと判明)と診断され、放射線と錠剤の抗がん剤治療を受けました。それでがんが消えるケースもあるとのお話があって期待しましたが、小さくなったものの完全にはなくなりませんでした。それで結局、10月に手術をすることになったわけです。

 入院したのは誕生日の翌日。好きなものをたくさん食べた次の日には下剤で腸の中を空っぽにしました。

 手術前日になっても「明日、寝て起きれば終わりだぁ」とマインド的には平気だったんですけど、頭と体は別もののようで、夜はドキドキして全然眠れなくなりました。睡眠薬なんてまるで効きません。見かねた看護師さんがそばに来てくれて、「緊張しているんですね」と言われた途端にぶわっと涙が出ました。年下の看護師さんに背中をさすられながら朝が来て、いよいよ手術になりました。

「散歩だけは主人と1日8000歩~1万歩を欠かさず続けた」という立花理佐さん(C)日刊ゲンダイ
術後の痛みで毎日泣いていた

 手術はダビンチ(腹腔鏡下手術ロボット)による、腸とその周辺の臓器の摘出でした。手術時間は13時間。朝、手術室まで歩いて行って、気付いたときは夜の病室でした。酸素マスクを装着され、手足は縛られていました。麻酔から覚めると錯乱する可能性があるため、拘束されることは手術前から聞いていたことです。

 ダビンチによる手術だったので、傷口は腹部周辺に4つの小さな穴があるだけです。翌日には立ち上がる練習をさせられました。でも、すごく痛いんです。自分で痛み止めの薬を投入する装置のボタンを押しても何も変わりません。「こんなに痛いことが世の中にあるんだ」と初めて知りました。しかも何日しても楽にならなくて、一生このままなのかなと思って、毎日泣いていました。

 それでも、1カ月ほどで退院になりました。その後もお尻が痛くてまともに座っていられない日々が続きました。主人がいろいろなタイプのクッションを買ってきてくれたんですけど、どれもダメ。横になるか、立っているかしかできなくて、食事も立って食べることが多かったです。

 でも、内臓の癒着が怖いので散歩だけは主人と2人で1日8000~1万歩を欠かさず続けました。おばあちゃんに追い抜かれるくらいのスピードでしたけど(笑)。

 21年1月からは術後の抗がん剤治療を3クールやりました。本当は4クールと言われたのですが、経過をみて先生から3クールでOKが出ました。

 脱毛はしませんでしたが、副作用で手足の感覚がおかしくなり、冷たいものが触れないし、飲めなくなりました。常温のペットボトルでも触るとピリピリ電気が走るような、刺さるような痛みがあって、手袋や靴下が必須になりました。今は冷たいものも飲めるようになりましたけど、手足の違和感は若干残っています。

 手術から3年がたち、再発もなく順調に回復しています。でも、手術直後は顔が特殊メークの老婆のようで、痛みも続いて「今回ばかりは、もう立ち直れない」とすっかり心が折れていました。

 少しは体を動かさなければと昨年の5月からジムに通い始めたのがきっかけで、友人の誘いに少しずつ応えられるようになりました。支えてくれた仲間はもちろん、なにより家事と仕事の二刀流で頑張ってくれた主人と親孝行な息子に感謝しています。

(聞き手=松永詠美子)

▽立花理佐(たちばな・りさ) 1971年、大阪府出身。86年「第1回ロッテCMアイドルはキミだ!」コンテストでグランプリを受賞。ドラマ「毎度おさわがせしますⅢ」や映画「ビー・バップ・ハイスクール高校与太郎音頭」などに出演。歌手としても活躍し、日本レコード大賞で最優秀新人賞を受賞している。2000年に結婚し、大学生の長男がいる。

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