正解のリハビリ、最善の介護

慢性期で本格的なリハビリ訓練を入所で行える施設はあるのか

「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏
「ねりま健育病院」院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

 現在の日本の医療体制では、病院は大きく3つのカテゴリーに分けられています。 病気やケガの治療をする「急性期病院」、治療後に在宅復帰や社会復帰ができるように回復させるリハビリを行う「回復期病院」、認知症や生活習慣病などの慢性疾患に対し、外来(通院)や入院で長期的な再発予防治療や看護を行う「慢性期病院」です。さらに、慢性期においては、「介護老人保健施設(老健)」で積極的なリハビリ治療を行う施設ができてきました。

 これまで、急性期と回復期のリハビリについて詳しくお話ししてきました。今回から慢性期のリハビリを取り上げます。

 慢性期病院は、適用される保険、スタッフの配置基準、患者さんの要介護度の違いによって、さらに「医療療養型」と「介護療養型」に区分されています。ただ、いずれも医療ケアが必要な要介護の高齢者の長期間療養を目的とした施設で、明確なすみ分けができていないのが現状です。そうしたことから、介護療養型は今年3月末に廃止されることが決まっています。

 その受け皿として、「介護医療院」が新設され、さらに従来からある「老健」や「特別養護老人ホーム(特養)」が位置づけられています。いずれも要介護の高齢者を対象とした施設です。

 ただ、厳密には入居目的が異なり、介護医療院は「長期間にわたって療養する生活施設」、老健は「在宅復帰に向けたリハビリを受ける施設」、特養は「生活支援を受けながら長期間にわたり生活する施設」になります。

 このように、要介護の高齢者を対象とした施設はいくつもあるのですが、「本格的なリハビリ」を受けられる可能性があるのは現時点で老健しかありません。一応、リハビリを実施している慢性期病院や特養もあって、それをサービスポイントにしている施設もあるのですが、一般的な慢性期病院や特養では、「週に1回、リハビリができます」といった程度なのが実情です。

■「老健」は1日30分毎日できる

 先ほども触れたように、慢性期の施設の利用対象は要介護の高齢者です。しかし、だからといって“人間力”の回復が望めない方ばかりではなく、「もっとよくなりたい」「がんばって自立したい」といった意思があり、特に脳卒中後遺症の方や廃用症候群の方で回復できるリハビリを希望している患者さんはたくさんいらっしゃいます。そういう高齢者にとっては、週1回で2単位(20分×2回)程度のリハビリ量では絶対的に足りません。

 回復のためのリハビリが必要な方の場合、1日6単位(計120分)が必要で、4単位(計80分)では機能や能力が落ちていくというデータがあります。仮に回復期病院で1日最大9単位(計3時間)のリハビリを毎日行っていた方が、週1回で2単位(計40分)に変更になれば、状態は確実に落ちていきます。1日2単位のリハビリに加え、自主訓練ができればなんとか落ちないように状態をキープできますが、自主訓練が難しい場合はやはり落ちていくのが“原則”といえるのです。

 それらを考慮した場合、本格的なリハビリを希望するなら老健しか選択肢がないということになります。しかし、現実的には、一般的な老健は3カ月間の生活支援を受ける施設となっています。それは、攻めのリハビリを行える体制がつくれないためです。

 そもそも老健は「在宅復帰に向けたリハビリを受けることを目的とした施設」ですから、保険診療の制度上で毎日1単位(20分)のリハビリが行えます。また、老健に入る高齢者のほとんどは認知機能が低下しているので、「認知症リハビリ」というプログラムを週3回実施できます。1回20分が週3回なので、すべてを合計すると1日平均30分のリハビリができるということになります。老健の入居期間は原則3カ月(90日)と決まっているのですが、その期間にあたる90日間、1日平均30分のリハビリを毎日できる仕組みが整っている慢性期の施設は老健しかないのです。

 とはいえ1日平均30分ですから、回復期病院で行っている1日最大3時間のリハビリと比べると、かなり短時間です。比較的元気で1日30分では物足りないという方の場合、自主訓練を午前中に1時間、午後に1時間半行ってもらいます。すると、回復期病院と同じ1日3時間のリハビリになりますから、きちんと自主訓練をできる高齢者が老健に入ってリハビリに取り組むと、ぐんぐん状態が良くなっていきますし、そういう方はたくさんいらっしゃいます。

 私が院長を務める「ねりま健育会病院」は攻めのリハビリを実施する回復期病院に加え、慢性期の攻めのリハビリを行う老健施設を持っています。「もっとよくなるためにリハビリをがんばりたい」という要介護の高齢者をより回復させたいという思いもあって、併設を実現させたのです。

 次回も慢性期のリハビリについて、さらに詳しくお話しします。

酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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