老親・家族 在宅での看取り方

ねぎらってくれてありがたくて…母親の介護をする家族からの電話

ご家族の不安に寄り添いながら…
ご家族の不安に寄り添いながら…

 それまで介入していた他の在宅医療クリニックの対応に不信感を持った娘さんから、当院に連絡をいただいたのでした。患者さんは娘さんのお母さまで、パーキンソン病を患う75歳女性。

 娘さんは医療従事者で患者さんの家の近くに家庭を持ち、身重にもかかわらず診療に同席したり3つの訪問看護ステーションを介入させるなど、ご自分の医療的知見を生かしながら責任感を持って介護に積極的に参加されていました。

 患者さんは気管切開を経て、のどのチューブの交換やたんの吸引を必要とされています。このような患者さんの多くは、退院して家に戻った後、ご家族がその交換や吸引を担います。在宅医療の現場では、指導しながら一緒に行うことは珍しくありません。

 ある時、のどのチューブであるカニューレが詰まってしまったと電話が鳴り、往診に向かいました。

「完全に詰まったわけじゃないですが、以前詰まった時に1週間前からこういう予兆があって。なので早めに連絡させてもらいました。でも今は詰まってないから……。来週は危ないけど、今週末くらいまでは今のままでいけるかもです」(娘)

「では、今週の金曜とかに改めて来て、そこで交換しましょうか」(私)

「そうですね、それでお願いします。カニューレを抜く時はヘルパーさんから難しいと言われていて」(娘)

「ご家族とはいえカニューレを交換するのは不安ですし、怖いですよね」(私)

 ですが次の日、慌てた様子でやっぱり交換してほしいと娘さんから連絡をいただくことに。

「家族がやらないといけなくなるので。家族がやるって大変だよね?って言ってくれたし。かなりストレスなんですよね。訪看さんも間に合わないし。私の妊娠中の体調に配慮した時間帯に連絡いただいているので。皆さんには申し訳ないなと思ったんですけど、昨日の時点で交換すればよかったって後悔も生まれるので、次回からは連絡した時点で交換してもらえれば。これは記録残しておいてください。つらい気持ちをご理解ください」(娘)

 電話口からも精神的に追い詰められていたことが伝わってきます。ですがご自身のお気持ちを吐露され、声の調子も心なしか和らいだと思ったその瞬間でした。

「私が悩んでいたことをねぎらってくれて、ありがたくて。昨日の先生は『いくらご家族とはいえカニューレを交換するのは大変だよね、怖いよね』って言ってくれて、今まで言われたことがなくて、その言葉がうれしくて。私、実は妊娠中でナーバスになっているんです。そうやって寄り添った一言をいただけて本当に救われました」(娘)

 不安から解放された娘さんのすがすがしい声が響いていたのでした。

 なにげない医師の同情の一言から、ご家族や患者さんの不安を引き出すこともあります。特に在宅医療ではご家族の負担が増え、ナーバスになりがち。時にはご家族の気を落とさないように不安に寄り添いながら、患者さんやご家族の方が本当に求めている言葉を探ることも重要なのだと考えるのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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