正解のリハビリ、最善の介護

「老健」のリハビリでより回復するための方法はあるのか?

「ねりま健育会病院」院長の酒向正春氏
「ねりま健育会病院」院長の酒向正春氏(C)日刊ゲンダイ

 認知症や生活習慣病などを抱える慢性期の高齢者が回復のための本格的なリハビリを受けられる施設は「介護老人保健施設」(老健)しかありません。ただし、ほとんどの老健は、単に入所期間にあたる3カ月の生活支援を受ける、いわゆる“お預かり老健”となっているのが現状です。そのため「攻めのリハビリを受けてしっかり回復したい」と考えている患者さんは、より適切な老健を選択する必要があります。

 現在の日本の保険制度では老健は5段階に区分されています。①「超強化型」②「在宅強化型」③「加算型」④「基本型」⑤「その他」の5種類です。

 この区分は「老健は在宅復帰に向けたリハビリを受ける施設」であることをより明確にするために設けられたもので、在宅復帰率、ベッド回転率、リハビリ専門職の配置割合など10項目の実績に応じて加算される在宅復帰・在宅療養支援等指標の点数と、退所時指導やリハビリマネジメントなど4つの評価項目によって区分されています。

 5段階の中で最高評価に当たるのが「超強化型」で、在宅復帰・在宅療養支援等指標の点数(最高90点)が70点以上かつ、4つの評価項目の要件をすべて満たしている施設が該当します。つまり、しっかりリハビリを受けて、できるだけ早く在宅復帰したい高齢者は「超強化型」を選ぶ必要があります。

 ただ、「超強化型」は老健全体の25%ほどしかないうえ、「とりあえず保険制度で定められている1日平均30分のリハビリを毎日やります」といった程度の取り組みで、現実は“お預かり施設”となっている場合も少なくありません。

 老健に常勤している担当医の多くは、リハビリで回復したいと考えている高齢者に対し、「何が問題で機能と能力が落ちているのか」「どのくらいまで回復するのか」「そのためにはどんな介入が必要なのか」といった的確な予測や対応が難しく、積極的なリハビリを行える体制自体も整っていないからです。

 慢性期の高齢者でも攻めのリハビリを行える「超強化型」の老健に入所すればしっかり回復できる。100歳でも筋力と体力は向上できる。まずはこの“事実”を認識して、回復させるための攻めのリハビリを行う老健がこれからもっと全国に広まることを期待していますし、そうした施設を増やしていかなければなりません。

■自費リハなら制度を超えて取り組める

 私が院長を務める「ねりま健育会病院」に併設している老健「ライフサポートねりま」はもちろん「超強化型」で、それぞれの患者さんの希望に応じたリハビリ治療を実施しています。ご希望は攻めのリハビリから緩いリハビリまでさまざまですが、それに対応することが「超強化型」老健の役目です。

 ただ、以前もお話ししたように、認知機能や体力がそこまで落ちていない状態で、しっかり機能や能力を回復したいと考えている高齢者では、定められている1日30分のリハビリ訓練量では足りません。回復させるための1日のリハビリ時間はできれば計6単位(120分)が必要で、さらに4単位(80分)が欲しいところです。

 そこで当院では、回復を希望する方には制度上のリハビリ時間のほかに、自分ひとりで行う自主訓練を計画してタンパク質量を増やした筋活プログラムを行ってもらいます。午前中に1時間、午後に1時間半といった具合に、不足しているリハビリ時間を補うのです。

 ひとりで取り組むのが難しかったり、スタッフと一緒にがんばりたいという方に向けては「自費診療リハビリテーション」というシステムも導入しています。制度上の1日のリハビリ時間にプラスして、3単位(60分1万2000円)ごとに希望の単位数を組み込みます。仮に3単位をプラスすれば1日4.5単位(90分)になりますから、きちんと取り組むことができる高齢者は、立つ、歩く、コミュニケートするといった攻めのリハビリをどんどん実施できて、状態もぐんぐん良くなっていきます。

 老健というと、介護の合間に患者さんを入所させ、期間の3カ月が終わって自宅に戻ったら、再び3カ月後に入所させる……といった「3カ月リピートのお預かり施設」というイメージを抱いている人がほとんどでしょう。もちろん、「介護している家族が潰れてしまわないよう、一息つくために利用する」という使い方には大きな意義があります。

 しかしそれだけではなく、全国の要介護で回復を希望する方は、老健で積極的なリハビリを受けることでしっかり回復でき、日常生活に戻ってからも介護者の負担を減らすことができる--そんな利用法もあるのです。

 それを実現させるため、攻めのリハビリを行える体制が整った老健がもっと全国に増えていくことを期待しています。

酒向正春

酒向正春

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

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