自宅での療養を希望される方の中には、その理由として、ペットと一緒にいたいからという方も少なくはありません。
その方は肺がん末期のために通院が難しくなり、在宅医療を開始された75歳女性の患者さんでした。
「はじめまして。わんちゃん可愛いですね、お名前なんて言うんですか?」(私)
「バディーとアリスで4歳と5カ月。一緒にいられてうれしいです」(患者)
さっそく我々を出迎えてくれたのは、2匹の可愛い小犬たちでした。患者さんにとってこの犬たちも患者さんの療養を支える大切な存在だと分かります。
「体のお痛みとかはどこが一番あります?」(私)
「背中ですね」(患者)
「今痛み止めのお薬出てると思うんですけど効いてます?」(私)
「そうですね、わからなくなるくらいは効きます」(患者)
「お食事は?」(私)
「なかなか。食べられないの。んー、果物なら食べられるかも」(患者)
「つかまれば歩けそうですか?」(私)
「できると思います」(患者)
「ただトイレが遠いのでちょっとベッドの位置は変更しようかなと思ってます」(訪問看護師)
「そのほうがいいかと思います。ちょっと遠いのでね」(私)
「お願いします」(患者)
初回の訪問ではお薬の効果や食事生活環境、熱や倦怠感など、療養において困っていることはないか一通り伺います。訪問看護師を交えた会話にも的確に対応されしっかりされています。
「オプソ(痛み止めの麻薬)で、息苦しさは楽になりましたか?」(私)
「楽になった。よく眠れて」(患者)
「今ナルサス(錠剤)といって麻薬で長く効くのもあるので、そっちに切り替えて飲んだほうが楽かもしれない。ぼーっとしたりする可能性があるのと、ムカムカしたりするのが出るのと、そこは気をつけながらですが。吐き気止めは出てないですかね?」(私)
「入ってないですね」(患者)
数回の診療で前回使用した薬の効果や相性、今後フォローし続けないといけない課題について確認すると、比較的安定されているご様子です。ですがそんなある日、患者さんの介護をしているキーパーソンでもある姪にあたる方より、「真夜中におばちゃんに睡眠薬を飲ませるということは可能でしょうか?」との相談メールをいただきます。
「ここ何日間か私は夜中に何度も起こされ、まともに眠れてないため、家事や犬の世話ができなくなってきて、イライラして、おばちゃんに当たってしまって。それを姉2人に相談したところ、ドクターさんに話せば睡眠薬をもらえるよと言われて……」
そこで不眠とせん妄の疑いにより新しいお薬を処方し、様子をみることにしました。
介護も可愛い犬の世話も一筋縄ではいきません。そんな時には医学的な相談から愚痴の聞き役でもいいのです。患者さんだけでなく周囲の方も、少しでも気が軽くなるような訪問診療を提供することが大切だと考えるのでした。