がん保険 本当に必要ですか

<2>がん治療の窓口負担額がアップしている理由

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がんの医療費については、さまざまな調査研究が出ています。それらをまとめると、初診から治療終了までに要する患者負担額の平均は、臓器にもよりますが、おおむね100万円以内です。

 これは、高額療養費制度のおかげです。1カ月の患者負担(世帯合計)が限度額を超えると、超過分に限って、事実上無料(超過した医療費の1%)になるという仕組みです。〈表〉は現在の負担額を示したものですが、たとえば年収770万~1160万円の人が入院して手術を受け、総額300万円の医療費を使ったとします。その場合の本人負担は19万1820円です。実際には、入院中の食事代などが加わりますから、これより少し高くなります。

 また、高額療養費の適用を受ける月が、過去1年間で3カ月ある場合、4カ月目も限度額を超えると「多数該当」に当たり、自己負担額は9万3000円に固定されます。

 健康保険の中に、こうした仕組みが組み込まれているため、がんの医療費は意外なほど少なく抑えられているのです。

 これまで「民間のがん保険は不要である」とする意見の最大のよりどころが、この制度でした。がん治療に要する医療費が、100万円程度とするならば、貯蓄で十分賄えるはず。わざわざ高い保険料を払う必要はない、というわけです。

■がん医療費の高騰が限度額引き上げに影響

 しかし、近年の高齢化に伴う国民医療費の膨張によって、保険制度そのものが存続の危機にさらされつつあります。実は2014年12月以前は、限度額がもっと低かったため、患者負担は今よりも軽かったのです。それが、15年1月から現在の額に改定されました。冒頭に述べたがんの医療費の平均額は、それ以前の研究によるものです。いま調査を行えば、おそらく5%ほど金額が増えているはずです。

 しかも、いまは限度額をさらに引き上げようという議論が行われています。実は限度額が引き上げられた最大の理由が、がん医療費の高騰にあるといわれています。とくに抗がん剤治療では、患者1人に、1カ月で数百万円かかるケースも珍しくありません。

 限度額が徐々に引き上げられて、月々の負担が30万円、40万円に達する日も、そう遠くなさそうです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。