世界が注視する最新医療

がんを溶かして免疫力をアップ がんウイルス療法の実用性

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ウイルスを使った新しいがん治療が始まろうとしています。ウイルスでがんを溶かしてしまおうというのです。

 昨年10月、アメリカ食品医薬品局が、単純ヘルペスウイルス1型(製品名T―VEC)を末期の悪性黒色腫に使用することを承認しました。発表によれば、ウイルスを投与した患者は、中央値で4・4カ月間の延命ができるということです。

 がんを破壊するウイルスは、100年以上も前から世界中で多数見つかっており、総称して「腫瘍溶解性ウイルス」と呼ばれています。その名のとおり、感染したがん細胞を溶かしてしまう性質を持っています。しかも増殖を繰り返し、周辺のがん細胞へと感染を広げ、破壊していくのです。

 正常な細胞には、ウイルスの感染を防ぐ機能が備わっています。ところが、がん細胞ではその機能が壊れていることが多く、容易にウイルスに侵されます。

 しかし、治療に使うためには、正常細胞への感染をできる限り抑える(発病を抑える)必要があります。いままでウイルスが使われてこなかったのは、発病の制御が難しかったからです。

 承認されたウイルスは、最新のバイオテクノロジーでヘルペスの発症を抑えるような改良を施されています。

 T―VECに感染したがん細胞は、単に溶けてなくなるだけでなく、その際にがんに対する免疫力を高める物質をばらまくように設計されています。がんはT―VECと免疫細胞から同時に攻撃を受けることになるため、より効率よくがんを叩くことができます。

 ジシクロウイルス(VSV)とラッサ熱ウイルス(LV)を掛け合わせたキメラ(人工的な混血ウイルス)も注目株です。VSVは脳腫瘍を効率よく破壊するのですが、正常な脳細胞にもダメージを与えてしまいます。そこで、さまざまなウイルスと掛け合わせて改良を試みた結果、LVでうまくいったのでした。

 ラッサ熱は、西アフリカに多いウイルス性出血熱のひとつ。エボラほど激しくはありませんが、症状は似ています。実はVSVとエボラウイルスを掛け合わせたものも、別のがんに有効であることが確認されています。

 もちろんどちらも病原性は抑えられています。アメリカで臨床試験に入っているので、じきに承認されるかもしれません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。