世界が注視する最新医療

受精卵にゲノム編集 デザイナーベビーはすぐそこに来ている

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ゲノム編集の最新技術である「CRISPR/Cas9」を使えば、ある遺伝子に狙いを定めて、簡単にそれを破壊したり取り除いたりできます。しかし、それだけでは「編集」といえません。何か別の遺伝子を染色体上の好きな場所に挿入できれば、本格的な編集作業が可能になります。

 実は、その技術もすでに確立されています。理屈は単純です。挿入したい遺伝子のDNAを、CRISPR/Cas9と一緒に細胞に注入します。すると、まずCRISPR/Cas9が染色体の指定された位置に切れ込みを入れます。次に細胞内のDNA修復機能が作動するのですが、その際に一緒に注入しておいた遺伝子のDNAを取り込んでつないでしまうのです。こうして、好きな遺伝子を好きな場所にアッという間(数時間程度)に挿入できるようになりました。

 レトロウイルスなどを使っても、ヒトの染色体に特定の遺伝子を挿入できますし、すでに遺伝子治療として行われています。しかし「挿入位置」までは指定できません。それが可能になったのですから、その影響は計り知れません。

 中でも「デザイナーベビー」は、法律や倫理も含めて大きな問題を社会全体に提起しています。実際には赤ん坊でなく、受精卵にゲノム編集をかけることになります。病気の遺伝子を除去したり、好ましい(?)遺伝子を挿入することが考えられているのです。

 実際にやってみようという科学者も現れました。昨年、中国でヒトの受精卵を使ったゲノム編集が試みられ、世界中で大騒ぎになりました。ヘモグロビンを作る遺伝子に異常がある受精卵を使って、正常な遺伝子と置き換える実験を行ったのです。実験では、体外受精用に準備されたものの、欠陥が見つかって使えなかった85個の受精卵が使われました。うち28個で異常な遺伝子の除去に成功し、数個に正しい遺伝子を挿入できたと報告しています。

 いまのところその精度は決して高くはありません。明日にでもオーダーメードされた子供が生まれてくる心配はなさそうです。

 とはいえ、技術革新は猛スピードで進んでいます。がんや糖尿病の遺伝子が取り除かれた子供が10年以内に出現したとしても、驚くには値しないでしょう。我々が「旧人類」と呼ばれる日も、そう遠くないのかもしれません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。