個人の健康情報が蓄積されてくると、それを利用した健康サポートビジネスが起こってきます。一般的な健康相談から栄養指導、フィットネス指導など、さまざまなものが考えられます。
ウエアラブル健康機器の専用アプリでも、栄養計算などができるものもありますが、今後はすべて「チャットボット(会話ロボット)」に代わっていくはずです。チャット(会話)形式のアプリのことで、LINEやFacebookのチャット機能と同じような使い勝手です。ユーザーが普通の言葉で文を入力すると、チャットボットが自然な表現で返事をしてくれます。あるいは音声で会話ができるチャットボットもあります。あたかも生身の人間とチャットをしているような感覚になるため、このような名前が付けられました。
■セールスの新しい武器に
実際には入力された文中のキーワードを抽出し、膨大な「会話データベース」から、プログラムされたルールに従って回答を選び出しているだけです。そのため入力する内容によっては、まったく見当外れや、不自然でぎこちない返事をすることもあります。しかし、機械学習やディープラーニングといった人工知能技術と組み合わせることで、数年以内に人間とほとんど区別がつかないようなチャットボットが現れるといわれています。
チャットボットはセールスの新しい武器として、あらゆる産業で注目を集めています。ユーザーとの会話を通じて、タイミングを計りながら「こんなものはいかがですか」と、さりげなく商品を紹介することができるからです。もちろん、ユーザーが商品名をタップすると、すぐにそのサイトに移動できる仕掛けです。自然な会話を経て、契約や購買に誘導しようという戦略です。
健康や医療の世界では、フィットネスクラブや健康食品が最初のターゲットになるはずです。スマホで健康管理をしている人の多くは、そちらの分野に明らかに強い興味を持っています。しかも、自分の健康データに基づいて勧められたサービスや商品なら信用できそうです。人気のあるチャットボットの推奨となれば、なおさらでしょう。
チャットボットを通じてIT企業が健康産業を支配する日も、そう遠くなさそうです。
永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。