スマホが医療を変える

アプリでデータ収集 スマホ活用の臨床研究が世界で進行中

 スマートフォンを活用した臨床研究が始まっています。日常生活と病気の関係や、病気がどう進行していくかを長期にわたって明らかにしていく研究です。

 糖尿病や高血圧などが、毎日の食事や運動とどのくらい関係しているのかを調べるのは大変です。どんなときに喘息発作が起こるのかも、個別の患者から聞いた話だけでは統計的な説得力は得られません。そのため、従来は外来患者などにお願いして、毎日記録をつけてもらい、さらに定期的に病院に来てもらうなどして研究を行っていました。しかし、それでは病院の近所に住んでいる、時間に余裕のある人ばかりになってしまい、あまりいい研究にはなりません。

 スマートフォンは、こうした問題を一気に解決しつつあります。大学などの研究者が臨床研究を始めるにあたって、まず、データ収集用の専用アプリを作り、次にSNSなどで広く参加を呼び掛けます。参加者はもちろんボランティアです。自分のスマホにアプリをダウンロードして、所定のデータを計測し、アプリに入力。データはアプリから研究者のサーバーに転送されるという仕組みです。

 2015年にアップル社が「Apple ResearchKit」という、臨床研究用のプラットフォームを公開してから、世界中で一気に火がつきました。これは「心疾患」「糖尿病」「喘息」「パーキンソン病」などの臨床研究用アプリを簡単に作成できるツールセットです。「iPhone」の加速度センサー、光センサー、気圧計、GPS機能や、「Apple Watch」の心拍センサー、活動量センサーなどから、自動的にデータを収集するアプリを開発することができます。

 たとえば、喘息発作が起こると、咳で全身が激しく振動します。それをセンサーで感知し、「時刻」「継続時間」「気圧」「場所」などのデータを一緒にサーバーに送れるわけです。

 また、糖尿病患者の毎日の運動量を、食事の写真と一緒に送ってもらうこともできます。さらに、自宅で血糖値を測ってもらえば、糖尿病がどのように進行していくか、どのくらいの運動と食事で進行が抑えられるか、といったことまで詳しく分かってくるはずです。

 スマホを使った臨床研究は、病気の予防や治療の研究に大きな革命を起こそうとしているのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。