スマホが医療を変える

健康医療産業を破壊 健診医や検査技師は職を奪われる

患者や一般市民に、健康管理や疾病予防の“主役”がシフト
患者や一般市民に、健康管理や疾病予防の“主役”がシフト(C)日刊ゲンダイ

 スマホ医療が進展すると、医師から患者や一般市民に、健康管理や疾病予防の“主役”がシフトしていきます。スマホとそれにつながるウエアラブル計測装置、治療装置、さらには自身のゲノム情報を携帯し、専用アプリやネット上の人工知能で“武装”した一般市民は、医療の専門家たちにとって手ごわい相手になっていきます。そして、従来の健康医療産業に破壊的な影響を及ぼしていくことになるでしょう。

 最初に危機を迎えるのは、健診で食べている医師や技師たちでしょう。年1回の職場健診など、ほとんど無意味になっていきます。彼らは法律を盾に、必死に既得権益を守ろうとするかもしれません。しかし、そもそも法律は、彼らの生活を守るためにあるのではありません。

 慢性疾患の治療や管理も、スマホとウエアラブル装置にシフトしていきます。いままで軽症患者ばかりを相手に、処方箋を書くのが仕事という開業医も、次々に淘汰されていきます。医師免許を持っていれば食べていける、といった時代は終わりを告げます。

 医療産業界でも大きなパワーシフトが起こりつつあります。いままでは製薬企業やCT・MRIなどの重厚な医療機器メーカーが主役を張っていました。しかし今後はクスリからサプリメントや健康食品へ、高価な医療機器から小型軽量のウエアラブル健康医療機器へと需要の中心が移ってきます。スマホを使った臨床研究が進めばいままで「効果あり」とされてきた医薬品の多くが、実はほとんど効果がないことが明るみに出てしまうと指摘する専門家もいます。

 スマホ医療には、膨大な情報を高いセキュリティーを維持しつつ転送・蓄積し、高い精度で分析する情報通信インフラが不可欠です。そんなインフラを構築できるのは、いまのところ、グーグル、マイクロソフト、アップル、フェイスブック、IBMといった米国の巨大IT企業しかありません。しかも、日本の政府や大企業の大半が「IT音痴」であることは、周知の事実です。

 日本の健康医療市場を守るには「情報鎖国」しかありません。しかし、それはほとんど不可能でしょう。日本の医療は、スマホによって大きな転換点に立たされようとしているのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。