「多死社会」時代に死を学ぶ

「3大疾病」による死亡は増えているのか

これら3つの病気による死亡率は実は下がっている
これら3つの病気による死亡率は実は下がっている(C)日刊ゲンダイ

 少し前までは、「がん」「心臓病」「脳卒中」は「3大疾病・3大死因」などと呼ばれていました。このうち、脳卒中は2011年に肺炎に抜かれて4位に後退しましたが、今回は3大疾病の一員として扱うことにします。

 とはいえ、これら3つの病気による死亡率は、必ずしも伸びているわけではありません。表面的な数字は伸びているようにも見えますが、過去の数字と単純に比較するわけにはいきません。高齢化が進んで、人口構成が変わってしまったからです。そこで「年齢調整死亡率」という指標がよく使われます。1985年の人口構成を基準に、現在の人口構成に補正をかけて死亡率を計算し直すのです。すると、まったく異なる景色が見えてきます。

〈表〉は、1985年と2015年の死亡率と、年齢調整死亡率をまとめたものです。「がん」(悪性新生物)の1985年当時の死亡率(男)は214.8でした。男性10万人当たり、214.8人が、がんで亡くなったことを意味しています。それが2015年には369.7に増えています。これだけを見れば、確かにがん死が増えていることになります。

■死と縁遠くなった若者たち

 ところが年齢調整を行って高齢化の影響を取り除くと、死亡率は165.3に下がってしまうのです。つまり、がんで亡くなっているのは高齢者ばかりで、現役世代や若年者のがん死はかなり減ってきている、ということなのです。

「心疾患」ではこれがさらに顕著になります。単純な死亡率(男性)は1985年が146.9、2015年では151.0と、若干上がっているのですが、年齢調整を行うと、たったの65.4に下がってしまいます。やはり心疾患で亡くなるのは高齢者ばかり、という構図が見えてきます。

「脳血管疾患」に至っては、もっと極端な数字になっています。単純な死亡率でも下がってきているのに、年齢調整を行うと、1985年と比べて男女とも4分の1程度になります。若くして脳卒中で亡くなる人は、著しく減ったということです。

 3大疾病はすでに克服されつつあるのです。高齢者を含めた全国民レベルで見れば、多死の主要な死因であることは間違いありません。しかし、それは高齢者にとっての「死の病」です。

 現役世代や若年世代にとって、とりわけ脳血管疾患と心疾患は、過去の病気になりつつあるといってもよさそうです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。