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前立腺がん手術は住んでいる場所で手術法が決まっている?

前立腺がん手術の多い県・少ない県
前立腺がん手術の多い県・少ない県(C)日刊ゲンダイ

 2014年度に全国で行われた前立腺がん手術は2万254件。内訳は開腹1万6874件、腹腔鏡2355件、ミニマム1025件でした。

 開腹手術の件数は東京都がトップ(2173件)。以下、大阪府(1144件)、神奈川県(1125件)、愛知県(1022件)と順当な結果になっています。しかし、最下位の富山県は4件、同2位タイの佐賀県・福井県は58件など、人口比から見ると、かなり少なめな数字です。

 とくに差が大きいのが腹腔鏡手術。意外にも広島県(279件)がトップ、次いで大阪府(238件)、東京都(215件)の順になっています。しかし、北海道、長野県など15道県では、腹腔鏡手術は行われていません。また、ミニマム手術のトップは愛知県(186件)、次いで栃木県(161件)、東京都(130件)の順。栃木県は腹腔鏡手術がゼロですが、ミニマム手術には積極的です。こちらは38府県がゼロ件でした。

 つまり、住んでいる県によっては、受けられる手術が限られてしまうということです。いざ手術となったとき、腹腔鏡やミニマムを選択したい場合は、他県の病院に入院せざるを得ないこともあるのです。

 全手術数で見た都道府県間の格差は、どのくらいあるのでしょうか。各県の手術の合計数と男性人口から、男性10万人当たりの手術数を計算して〈表〉にまとめました。また、前立腺がんの死亡率(男性10万人当たりの年間死亡人数)を併せて載せておきました。

■手術数と死亡率は関連なし

 手術がもっとも多かったのが香川県で、男性10万人当たり257件も行われていました。次いで熊本県、鹿児島県、広島県の順です。しかし上位の県には、これといった傾向は見られません。あえて言えば、西日本のほうが前立腺がんの手術に積極的、と言えるかもしれない程度です。手術が少ないほうでは三重県が最下位で63件、次いで富山県、新潟県の順です。こちらも地域的な傾向は見られません。

 トップと最下位の差は、4倍以上に達しています。ところが前立腺がんの死亡率には、さほどの違いは見られません。確かに香川県のほうが、三重県よりも低い数字になっていますが、その差は2・5(人/男性10万人)に過ぎません。その他の県を比べても、手術件数と死亡率の間には、はっきりとした関連は見られません。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。