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大腸がんの内視鏡手術 適応は悪性ポリープと上皮内がん

男性の上皮内がん患者と内視鏡手術件数(左)
男性の上皮内がん患者と内視鏡手術件数(左)/(C)日刊ゲンダイ

 大腸は長い臓器です。そのため部位によって手術のやり方も違ってきます。ただ、手技としては大きく「内視鏡」「腹腔鏡」「開腹」の3種類で、とくに内視鏡手術はどの部位でも基本的に同じです。今回は内視鏡手術について見ていきましょう。

 悪性ポリープと上皮内がんが適応になります。方法として「ポリペクトミー(ポリペク:内視鏡的ポリープ切除術)」「EMR(内視鏡的粘膜切除術)」「ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)」の3種類が確立されています。

■手法の違いは?

 ポリペクはキノコ状のポリープに有効。細いワイヤの輪を内視鏡先端から出し、ポリープの茎にひっかけ、電流を通して焼き切ります。しかし茎のない平たいものや、粘膜上皮の中に埋もれているがんは、この方法では取れません。そこで内視鏡の先端から注射針を出して、がんよりも内側に生理的食塩水を注入し、がんを表面に押し上げるのです。あとはワイヤをかけて電気的に焼き切るだけ。これがEMRです。

 EMRで切除できる上皮内がんは、直径2センチ程度までです。がんがもっと広がっている場合は、ESDの出番です。

 まず切除範囲をマーキングし、次に粘膜下層に食塩水を注入して患部を浮き上がらせます。そして、マーキングに沿って電気メスで上皮を剥がすように切り取るのです。ESDのおかげで、今ではかなり大きな上皮内がんも切除できるようになりました。

 表には上皮内がんの男性患者数(2012年)と内視鏡手術件数(2014年度)をまとめました。患者の6割は結腸、残り4割がその他の部位ですが、大半は直腸です。ESDは大腸がんのみの適応となっています。したがってESDの件数は、直径が2センチを超える大きな上皮内がんの患者数を表しています。

 一方、ポリペクとEMRは良性腫瘍にも適応されるため、悪性・良性合わせた数字が公表されています。しかし表の数字から、大半が良性であることは明らかです。

 統計の年度が2年ずれていますが、大ざっぱに言って患者の合計が約2万3000人。そのうち約1万1000人がESD。したがって、ポリペク・EMRを受けた上皮内がん患者は、約41万人のうちの約1万2000人、割合にして約3%だったことが分かります。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。