今回は大学病院の経営状況を見ていきましょう。とくに私立医科大学に焦点を絞ります。「医科大学」と名乗るところの大半が、医学部と看護学部で構成されています。学生数が少なく、学費収入は限られています。付属病院が最大の収入源になっているため、決算書の中身が分かりやすいという利点があります。私立の医学部ならではの、経営上の特徴を見るのに適しているのです。
関東地方には、7つの私立医科大学があります。独協医科大学(栃木県)、埼玉医科大学(埼玉県)、東京医科大学、東京慈恵会医科大学、東京女子医科大学、日本医科大学(以上・東京都)、聖マリアンナ医科大学(神奈川県)です。埼玉医大は医学部と保健医療学部の2学部制で、看護以外にも臨床検査・医用生体工学・理学療法といった学科を持っています。残りの大学は医学部と看護学部(ないし看護専門学校)だけの構成です。
実は栃木県にある「自治医科大学」も形式上は私立大学です。もともと旧自治省(いまの総務省)がつくった大学で、いまでも理事長から職員に至るまで、多くが総務省の自治系官僚や出身者で占められています。本部は東京に置かれており、運用資金の大半は全国の都道府県が出資しています。学費は実質無料(卒業後所定の期間、各地の指定公立病院に勤務することが条件)と例外ずくめのため、今回は除きました。
<表>に示したとおり、すべての大学が3ないし4個の付属病院を持っています。リストの先頭の病院が「本院」と呼ばれるものです。国から特定機能病院に指定されるのは、普通は本院と決まっています。狭い意味での「大学病院」にあたります。
付属病院の全病床数の最大は、埼玉医大の2641床です。次いで慈恵会医大、東京女子医大、日本医大、独協医大、東京医大、聖マリ医大の順。最少の聖マリ医大は1812床しかありません。ただし川崎市立多摩病院(367床)の指定管理者になっています。川崎市が開設した病院ですが、管理・運営の一切を聖マリ医大に丸投げしています。その意味で同大学の付属病院のようなもの。事実、同大学の事業報告書では、他の付属病院と同格に扱われているのです。
永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。