生活と健康 数字は語る

高血圧のリスクと降圧剤でリスクが減るということは別

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 今日の話は高血圧がリスクだということと、降圧薬でリスクが減るということは別という話です。わかりにくい話ですが大事なことなので辛抱してお付き合いください。

 具体的な数字でいうと、血圧が130以上の人は、120未満の人に対して2倍くらい脳卒中のリスクが高いのですが、130以上の人に降圧薬による治療をして血圧を120未満にしても、脳卒中が半分になるかどうかはわからないということです。この事実は臨床試験によって繰り返し示されています。

 例えば糖尿病に関しては、血糖を薬で下げても、その分、合併症や死亡のリスクが減らないことが今や明確です。Hb(ヘモグロビン)A1c8%の人に対し、7%の人は合併症のリスクがおおよそ半分になりますが、8%の人をインスリンやスルホニル尿素という薬で7%まで下げても、合併症は半分どころか、せいぜい10%くらいしか減らないことが示されています。メトホルミンという薬でようやく30~40%予防できるという結果ですが、それでも半分には届きません。もともとHbA1cが7%の人と薬で7%になった人は同じではないのです。

 それでは血圧についてはどうでしょう。160以上の人を140未満にすることによる脳卒中などの予防効果は、すでに多くの研究結果で示されています。上の血圧を10下げると脳卒中が40%予防できるという期待通りの結果です。140~160の人たちにも同様な結果が集積されつつあります。

 しかし、130~140の人たちについてはほとんど研究がありません。リスクの点で130は血圧高めですが、薬で120未満に下げたほうがいいかどうかはよくわからないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

関連記事