長嶋茂雄さんも心房細動による脳梗塞 予防に新たな選択肢

観客の声援に応える長嶋茂雄氏(2016年撮影)
観客の声援に応える長嶋茂雄氏(2016年撮影)/(C)日刊ゲンダイ

 長嶋茂雄元巨人軍監督の脳梗塞の原因となったのが、不整脈の一種である心房細動だ。発症者の大半が高齢者で、80歳以上では日本人男性の20人に1人が該当するといわれている。2019年秋から治療の新たな選択肢が登場し、その最新データが発表された。

「心房細動は、心房と呼ばれる心臓内の部屋が小刻みに震えて動かなくなる病気です」(小倉記念病院循環器内科副部長・福永真人医師=以下同)

 症状は動悸や息切れだが、無症状の人もいる。動悸や息切れは生活の質(QOL)を低下させる。また、たとえ無症状でも放置していいわけではない。心房細動は脳梗塞のリスクを上げるからだ。

「無症状の方がむしろ脳梗塞の発症率、全死亡率が高く、心房細動では脳梗塞発症リスクが5倍とのデータもあります」

 心臓と脳は離れているので一見無関係のように思えるが、心臓にできた血栓(血の塊)が首の血管を通って脳に飛び、脳の血管を詰まらせる。このタイプの脳梗塞(心原性脳塞栓症)は、脳梗塞の中でも最も重篤で、6割が介助が必要になったり、寝たきりになる。

 そうならないために、治療で行われるのが、血液をサラサラにする抗凝固薬(ワーファリンなど)の服用だ。しかし、「血液が固まりにくくなる」という薬の特性から、問題点もあった。

「年間3%で大出血を起こし、4分の1程度の人が薬を飲み続けられなくなるのです。70歳くらいまでは多少リスクがあっても抗凝固薬を飲めても、80歳を超えると腎臓が悪くなって出血リスクが高くなり、転倒しやすく大出血のリスクが高くなります」

 現在91歳の男性は心房細動で抗凝固薬を飲んでいたが、ひどい貧血を繰り返し起こし、毎月のように入院。このまま貧血が続けば命にかかわる危険がある。かといって、過去に脳梗塞を起こしているので、抗凝固薬を飲まないと再び脳梗塞を起こすリスクが高く、やはり命にかかわる危険がある。抗凝固薬をやめるか、続けるか。本人も家族も、まさに「死の選択」に頭を悩ませていた。

 そんな時に承認されたのが冒頭で触れた治療の新たな選択肢。WATCHMAN(「ウォッチマン」)というデバイスを用いた左心耳閉鎖治療だ。 

■出血リスクが高い薬をやめられる

 心臓の4つの部屋のひとつ、左心房から耳たぶ状に突出する「左心耳」は血栓ができやすい部分。心房細動による脳梗塞の9割は左心耳の血栓が原因といわれている。左心耳閉鎖治療は、「ウォッチマン」を左心耳の入り口に留置し、血栓をできにくくする。先端に「ウォッチマン」をつけたカテーテル(細い管の医療器具)を脚の付け根の小さな切開口から入れ、心臓の左心耳に到達したら、「ウォッチマン」を膨らませる。

 手術後には「ウォッチマン」を覆うように内皮化が進み、やがて体の一部のようになる。カテーテルの治療なので、メスで胸を開くことなく、体への負担は少ない。

 治療自体は1時間前後で終了し、入院期間は2~3日。抗凝固薬はやめられ、出血のリスクが減る。左心耳閉鎖治療を受けた前出の91歳の男性は、貧血を全く起こさなくなり、今では読書や音楽・テレビ観賞といった趣味を満喫する生活を送っている。

 国内10施設で54人の心房細動の患者を対象にした臨床試験では、実施2年後のフォローアップの結果が出ている。それによると、「ウォッチマン」留置後45日時点でワーファリンを中止できなかったのは1例。ただし、別の病気が理由だ。

 留置後6カ月時点で血栓が確認されワーファリン再開となったのが2例。しかしその後ワーファリンを中止でき、2年後には全員がワーファリンをやめられ、左心耳閉鎖による抗凝固薬中止率は100%となった。2年間で、心房細動や「ウォッチマン」留置による脳梗塞もゼロだった。

 抗凝固薬で問題がない人は今の治療のままでいい。しかし、出血をよく起こす、転倒しやすいなど何らかの問題を抱えている人は、主治医に一度相談してはどうだろう。

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