最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

新型コロナの影響で在宅医療の重要性が一層浮き彫りに…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 だれもが、いつでもどこでも受けたい医療を受けられる。そんな時代が来るはずだと考え、4年前、私たちは在宅医療専門のクリニックを開業しました。

 そんな患者さんの個性に合わせた、どんな状況でも柔軟に対応できるテーラーメードな在宅医療の重要性を、コロナが浮き彫りにしました。というのも、コロナが怖いから退院したい、コロナで病院が面会禁止になっているから自宅に帰りたいという方が確実に増えているのです。

 また、院内でのリハビリができなくなったり、通常の入院で行われるはずのマンツーマンの医療サービスが滞りがちになるなど、コロナの影響は確実に出ています。

 一方で、退院時に病院側の医師と在宅診療所の医師とで患者さんを受け入れるために行う協議について、以前なら双方の時間を合わせるのが大変だったのが、オンライン会議システムの活用で、スムーズに進められるようになりました。

 この退院時の協議では、病状の説明に加え、本人や家族の希望など大事なことが話し合われます。病状は診療情報提供書(紹介状)を見れば分かるのですが、患者さんやご家族に病院の医師が何をどこまで説明をしているのか、患者さんとご家族の希望に違いがあるのかなど、文面では表現できない微妙な内容も確認できます。

 コロナが怖いからと在宅医療に切り替えた患者さんがいました。その方は奥さまとの2人暮らし。アルツハイマー型認知症で、前立腺がん末期の80歳の男性です。コロナの影響で院内でのリハビリができなくなり、筋力などの機能低下(廃用)が進みトイレに行くのも困難に。奥さまが見かねて在宅医療への移行を決断しました。

 在宅医療がスタートしたのは桜の咲く4月。それから4カ月後の8月には旅立たれていかれました。

 自宅に戻られた当初は旺盛な食欲を示され、奥さまの用意したおにぎりやグラタン、好物の大福もちをおいしそうに食べていたとのこと。

 九州男児で日頃は寡黙な患者さんがある日、珍しく私たちにお話しされたこともありました。

「来たよ、優しかった、優しい看護師さんばっかりだよ」

 時にコンビニへ買い物に行くなど、残された季節を奥さまと一緒に過ごされました。

 そんな奥さまが旦那さまを看取った後におっしゃった言葉が思い出されます。

「4月に退院したときはコロナがこんなになるとは思わなかった。最後の時間を一緒に過ごせてよかったです。病院だともしかしたら面会に行けなかったかも……。ありがとうございました」

 どんな状況でも患者さんの思いを大切にくみ取るのが、在宅医療の役割なのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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