最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

在宅医療に不信感を抱く奥さまが心を開いてくれた理由は…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 患者さんやご家族の中には、自分の意見や主張、希望を積極的に伝えない人もいます。それ以前に、在宅医療に対して「本当に大丈夫?」と不信感を抱いている人もいます。理由はさまざまですが、よくあるのは、自分の家に見ず知らずの他人が訪れることへの拒否反応でしょう。

 だからこそ私たちは、根気よく対面し、十分なコミュニケーションに努めます。

 患者さんやご家族が望んでいるテーラーメードな医療はなんなのか? 会話の中から探っていくわけですが、これが在宅医療を進める上で、重要な工程だと考えています。

 最初は違和感のあった空気が、徐々に変わっていく。往診を続けるうちに私たちの考えが理解され、もろもろの作業が、患者さんとご家族、私たちとの共同作業へと変わっていく。在宅医療本来の姿へとなっていくのです。

 かつて、そんなコミュニケーションが困難だった患者さんがいました。その方は63歳の男性で、奥さまと2人暮らし。末期の胆管がんで、すでにリンパ節への転移もある状態でした。私たちの在宅医療を受ける前、病院から紹介された別のクリニックの療養を受けており、その時の体験からか奥さまが在宅医療の医師に対して不信感を抱いていました。

 奥さまが地域包括センターに相談し、まず訪問看護師さんを紹介され、その訪問看護師さんが当院を紹介してくれ、私たちの在宅医療がスタートすることになりました。当初は、むくみが強く、また、がんによる痛みを取りたいけど、痛みを取るにはより強い鎮痛剤を飲む必要がある。そのことに抵抗を持っており、逡巡していました。

 ところが薬に対する疑問に丁寧に答え、会話を繰り返すうちに、鎮痛剤を使用されるように。やがて痛みが取れると、かねて好きだったそばを食べに出かけたり、公園を散歩したりと、やりたいことを徐々に実現できるようになっていきました。

 そのうち、あれほど在宅医療に対して不信感を抱いていた奥さまも少しずつ私たちを受け入れてくれ、こんなお話をしてくれるようになりました。

「みなさんが帰った後、主人が『良くしてもらって』って泣くんですね。息子も同じようなことを言って、がんの発見は遅かったけど、お父さんがいい先生やスタッフと出会えてよかったねって。本人の病気はつらいけれど、いろいろな人に会えて、私もよかったなって。みなさんの思いが私たちの支えになりました……」

 こうしておよそ2カ月後には、奥さまと2人の息子さんが見守る中で息を引き取られていきました。

 会話して共感する。それもまた在宅医療に大切な仕事だと考えています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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