最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

患者さんや家族に合ったキャラの医師やスタッフをマッチング

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「人を見て法を説け」ということわざがあります。説法する時にはその相手の性格や状況などを考えて、それぞれに合ったふさわしい方法で行うことが大切だとする仏様の教えです。

 この教えは私たち在宅医療の現場でも日々実践されています。

 一般的に患者さん側からこういう感じの医師やスタッフがよいといった具体的なリクエストがあるわけではないのですが、担当する患者さんがどんな症状で、そのご家族がいったいどんな思いなのかなど、面談の中で可能な限り拾い上げます。私たちの医院に所属するスタッフはさまざまな個性を持ったスペシャリストばかりです。現在のところ、医師は男性が19人で女性が14人。A医師は理論的な説明が得意だとか、B医師はお話を通じて相手からいろいろと聞き出すのがうまいだとか、それぞれ専門やキャラクターが違うため、どの患者さんに合うのかを考慮し、担当を決めるようにしています。

 それは、医師やその他のスタッフが患者さんや家族に受け入れられなければ、在宅医療そのものが成立しないためです。かつて在宅医療というよりも医療に対して不信感を持つ患者さんと家族を担当したことがありました。その患者さんは91歳の女性。膀胱がんが恥骨と左臀部、リンパ節にも転移していました。

 当初は95歳の旦那さんと2人きりで生活されていましたが、奥さまが伏せってからは長男夫婦の家に同居。いまはそこに長女が介護のために同居していました。ある時、その娘さんが私たちにこれまでの思いを吐露されました。

「今回、あけぼのさんに頼むまでも道のりが長かったんです。以前の在宅医療の時には、訪問看護師さんも点滴をつけるだけつけて帰っていっちゃって、ちょっと無責任だなって思ったこともあったりしました。病院に戻りたいという要望を伝えたら、なかなか診療情報提供書(紹介状)を書いてくれない。ほとほと在宅医療には懲りましたが、それでも母がどうしても自宅で最期の時間を過ごしたいからと、改めて希望しました。でもその時も、病院の先生からは訪問診療を途中で断ってるから紹介状は書けないと言われ、最終的にケアマネジャーさんに今度は断らないという約束で探していただきました」 

 こうして、最期は自宅でというご本人の希望通り、その10日後にはご家族が見守る中、旅立たれていかれました。

 自宅で最期を迎えたいという患者さんの素朴な思いが普通にかなえられる社会を実現するためにも、各医療や福祉関連従事者において、患者さんと会話をするスキルの向上はこれからますます重要になっていくことでしょう。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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