病気の内容に限らず、患者さんを診察する時、私たち医師が着目するのは、患者さんや同伴の方(主にご家族)の話の内容に限りません。むしろ、それ以外のこと、たとえば診察室に入ってきた時の表情、姿勢、動作、歩き方、言葉を交わしている時の様子などから読み取れることの方が多いかもしれません。認知症では、特にその傾向が強いように思います。
認知症を疑って初めて来院した患者さんで、診察を通して得られる情報や所見のうち特に重要なのが〈表〉で示したものになります。
一般的に、アルツハイマー型認知症の患者さんでは見た目は愛想良く、医師が質問した内容がわからなくても一見わかっているように取り繕うことが珍しくありません。
血管性認知症では、動作はゆっくりとしており、構音障害や感情失禁などが見られることがあります。構音障害とは、言葉は理解し、また伝えたいことははっきりしているのですが、発音や発声する器官がうまく機能しないため、正常に言葉を発することができない障害になります。
レビー小体型では、表情が乏しくなる仮面様顔貌、動作の鈍さ(パーキンソン様症状)、声が小さくなる……など。前頭側頭葉変性症では特別な理由もなくニコニコ笑っている方がいる一方で、イライラが強く不機嫌な方もいます。
また、高齢者のうつ病で一見認知症に見えるうつ病性仮性認知症では、表情に乏しく動きが少なく、小声。悲愴感や不安感を訴えたり、自分の能力の低さを悲観している様子が見て取れることがよくあります。
ただ、いずれもその病気特有の情報ではなく、慎重に情報を集め、鑑別診断を行わなければならないのはいうまでもありません。画像診断の結果に重きを置きすぎると誤診してしまうリスクがあることも、医師はもちろん、患者さん側(ご家族を含む)も覚えておきたいポイントです。
2006~08年に行われた疫学調査では、認知症のうち最も多いのがアルツハイマー型で67.4%。2番目が血管性認知症で18.9%、3番目がレビー小体型で4.6%、そして前頭側頭葉変性症が1.1%でした。
アルツハイマー型、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症は4大認知症とも呼ばれ、いずれも改善は困難なわけですが、治療の目標はそれぞれ異なります。
それゆえに、認知症とひとくくりにせず、鑑別診断が重要です。
アルツハイマー型とレビー小体型は薬物治療で進行を遅らせることが目標となりますし、血管性認知症は進行させないことが目標。
前頭側頭葉変性症は、現時点では確立された治療法はなく、非薬物療法や環境調整などで、患者さん、およびご家族の生活の質を向上させることが目標となります。
さて、認知症の疫学調査の結果を紹介しましたが、この結果ではレビー小体型が非常に少ない。医師の中には「レビー小体型はもっと多いはず。アルツハイマー型と誤診されている患者さんがかなりいるのでは」と指摘する声もあれば、そうではないと指摘する声もあります。
実際のところ、レビー小体型にアルツハイマー型の症状が合併することは多く、初期では鑑別が難しいケースもあります。レビー小体型以外の認知症でも同様です。患者さん側としては、最初に診断された病名を100%正しいと思い込むのではなく、別の可能性もあるのではないか、という目を持つことも必要だと思います。
アルツハイマー型とレビー小体型の典型的な違いを紹介します。
【アルツハイマー型】
・記憶障害が主に現れる
・幻視は少ない
・物盗られ妄想がよくある
・認知機能は緩やかに低下
・穏やかで、症状が大きく変動することは少ない
【レビー小体型】
・人や虫がいるなどの幻視や見間違いが多い
・幻聴も少なくない
・幻視で嫉妬妄想などが引き起こされる
・認知機能は良い時と悪い時とがある
・寝ている時に大声を出すなどの異常行動がある
・表情が乏しく、気分も沈むことが多い