五十肩を徹底解剖する

腱板断裂は無症状もあれば痛みが出たり消えたりすることも

写真はイメージ
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 肩の痛みが長く続くと、さすがに自分が「五十肩」なのか「腱板断裂」なのか、多くの皆さんが心配されるようになります。では、どのような場合、腱板断裂の可能性が高いのでしょうか。

①腱板断裂例の男女比では、およそ男性6割、女性4割になります。

②左右差ではおよそ右肩が7割、左肩が3割になります。

③ケガが半数、残りは思い当たる原因がありません。

 ケガと無関係に男性の右肩に多いのは、肩を酷使する人に腱板断裂が生じている可能性が高いことが示唆されます。

 ある村で超音波検査を用い、腱板断裂の有無を調べる集団検診を行った研究があります。

 結果、50代で11%、60代で15%、70代で27%、80代では37%に腱板断裂が認められました。加齢とともに増加することから、腱板断裂は長年の肩の使い込みにくわえ、腱板の老化も伴い生じてくるものと考えられます。

 一方、この集団検診で見つかった腱板断裂全体のうち、痛みがある村民は35%で、残りの65%は偶然、断裂が発見されただけでした。つまり、半数以上は「痛くない腱板断裂」だったのです。

 腱板断裂を負っていても無症状のこともあれば、痛みが出たり消えたりすることもある。世の中には、かつて肩の痛みを生じたときに五十肩と思い込み、自己対処や様子をみているだけでも、運良く症状が取れた腱板断裂の患者さんがいるかもしれません。

 さらには腱板断裂が生じていたのにもかかわらず、肩の痛みに悩まされず、人生を全うされた恵まれた方も存在する可能性がありますね。

 腱板断裂は、治療が一筋縄でいかないことが多い半面、たとえ的確な対応でなくてもそれなりに良くなるケースもあると思われます。そこに「腱板断裂」が、「五十肩」というあいまいな診断で片付けても許容される土壌があるのかもしれません。

 しかし、適切な診断治療をタイミングを外さず行わないといけない腱板断裂患者さんも少なからず実在することを、念頭に置かねばなりません。

安井謙二

安井謙二

東京女子医大整形外科で年間3000人超の肩関節疾患の診療と、約1500件の肩関節手術を経験する。現在は山手クリニック(東京・下北沢)など、東京、埼玉、神奈川の複数の医療機関で肩診療を行う。

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