コロナ禍で死亡が減ったのは、呼吸器系だけではない。実は循環器系でも、大幅に減っている。2020年1~4月期の死者は、2019年同期と比べて、約5600人減った。主な内訳は、次のようになっている。
■急性心筋梗塞
マイナス1409人
■心不全
マイナス1516人
■脳卒中
マイナス1718人
コロナと直接関係しないと思われる死亡が、なぜこれほど減ったのだろうか。
たとえば在宅勤務が増えたことにより、肉体的・精神的ストレスが減ったからかもしれない。満員電車に長時間揺られることも、職場の人間関係に悩まされることも減ったのが大きかったのかもしれない。
ところが年齢別の統計を確認すると、そうではない。現役世代の循環器系の死亡数には、ほとんど変化が見られないのである。大きく減ったのは、高齢者の死亡だった。65歳以上に限定すると、次のようになった。
■急性心筋梗塞(65歳以上)
マイナス1425人
■心不全(65歳以上)
マイナス1407人
■脳卒中(65歳以上)
マイナス1686人
急性心筋梗塞については、現役世代の死亡が、むしろ若干増えていた。
新型コロナによって、慢性疾患を抱えた高齢者の多くが受診を控えるようになった。そのため持病を悪化させ、亡くなる人が増えると考えられていたのだが、数字はまったく逆を示している。
■米国では「医源病」で年間25万人が死亡
そこで思い当たるのが「医原病」だ。不適切な治療や投薬によって患者の健康が害されることを言う。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学が行った研究によると、アメリカでは年間に25万人以上が、医原病で亡くなっているという。もっと多いと主張する研究者もいる。
日本でもかなりの人数が亡くなっているのではないかといわれているが、実態は解明されていない。ただ、多種類のクスリを同時に服用するのは危険だという専門家は多い。それぞれのクスリに副作用があるうえ、相互作用によって何が起こるか予測が難しい。3種類以上の併用は避けるべきだという医師や薬剤師もいるほどだ。だが現実には、それ以上のクスリを処方され、毎日飲み続けている高齢者が大勢いる。
しかしコロナ禍の影響で通院できなくなったため、途中でクスリが切れてしまった人が、少なからずいたに違いない。
半ば強制的に、クスリの中断を余儀なくされたわけだが、それによって逆に健康が回復し、このような予期せぬ結果になったのかもしれない。
もちろん単なる推測に過ぎない。しかしそうでないとしたら、なぜこれほど循環器系の死者が減ったのだろうか。詳しい研究を待つことにしたい。
永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。