新型コロナでわかった不都合な真実

コロナ禍の影響は?減った「溺死」と増えた「老衰」

入浴中のトラブルは減ったが…
入浴中のトラブルは減ったが…

「溺死」も注目に値する。溺死といっても大半は高齢者で、しかも自宅の風呂で死んでいる。

 入浴には、クスリと同等の降圧作用があることが知られている。高齢の高血圧患者は、血圧調節機能が衰えているため、入浴によって急激に下がりやすい。

 とくに降圧剤を服用している高齢者では入浴中に血圧が下がりすぎる危険がある。そのまま気を失って、溺死してしまう人が後を絶たないのである。

 毎年1~4月期だけで、3800~4000人が溺死している。

 ところが今年は溺死する人も少なかった。昨年の1~4月の死亡数は3768人だったが、今年は3346人(マイナス422人)に減少した。ここ数年で見ても最少の人数だ。

 しかしコロナ禍だから入浴を控えた、といった話は耳にしない。これも通院が減ったことにより、降圧剤の中断を余儀なくされた人が大勢いたからかもしれない。おかげで入浴中の失神が減ったのだろう。

 もちろんあくまでも可能性のひとつだが、検証する必要はあると思う。

 以上は減った死因だが、もちろん増えた死因もある。もっとも増えたのが「老衰」だ。高齢で、とくにこれといった病気もないまま亡くなると老衰と判定される。昨年1~4月期の死亡数は4万1008人だったが、今年は4万3905人になった。2897人の増加である。

 とはいえ、これは単なる自然増だ。ここ数年間で見ると2700~2800人/年のペースで増え続けており、今年だけ際立って増加したわけではない。

 がんの死亡数も増えた。昨年と比較して1108人の増加である。コロナ禍が始まった当初から、がん患者の治療が遅れて死亡が増えると懸念されていたので、それが現実になったのかもしれない。

 だが、がん死亡数は次のよう推移しており、この程度の増加は、むしろ「例年並み」と言ったほうがよさそうだ。

●2015年 12万1669人
●16年 12万2988人(プラス1319人)
●17年 12万2504人(マイナス484人)
●18年 12万3055人(プラス551人)
●19年 12万3413人(プラス358人)
●20年 12万4521人(プラス1108人)
※( )内は前年同期との差

 つまりコロナ禍によって、がんの死亡数が影響を受けたとは言い難いのである。とはいえ、がんは徐々に進行する病気なので、4月までの受診控えが今後じわじわと悪影響を及ぼしてくる可能性はある。今後の数字の変化を注視していきたい。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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