新型コロナでわかった不都合な真実

コロナ禍で急増中…警察と厚労省では自殺者数が異なる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナは心にも大きなダメージを与えることが分かっている。感染への恐れや先が見えない自粛生活への不安、日本社会を覆う閉塞感から気持ちがふさぎ込んでしまう。「新型コロナうつ」などという言葉を耳にした人も多いはずだ。そんな中、7月以降、3カ月連続で自殺者数が増えている。著名人の自殺も相次ぎ、その「後追い自殺」「模倣自殺」も多いという。

 ところで、こうした自殺者数は警察と厚労省ではその数が異なる。なぜなのか。

 警察庁によると、先月自殺した人は速報値で全国で1805人。昨年同時期に比べて143人(8・6%)増となった。目立つのは女性の自殺で、昨年よりも27・5%増えて639人だという。

 8月の自殺者は1854人で昨年同月よりも251人多かった。自殺者が昨年より多かった月は3カ月連続となる。

 自殺者は2009年の3万2845人以来、減り続けてきた。とくに今年の自粛期間中の4月は昨年と比べて321人、5月は284人も減った。このまま減り続けるのかと思いきや、経済活動再開後の7月にはプラス25人となり、8月以降一気に増えた。

 ところで以前、交通事故の死者数は警察庁と厚労省(人口動態統計)で異なるという話をした。実は自殺者数も異なっている。2019年の数字をあげると、次のようになっている。

●警察庁 2万169人
●厚労省 1万9425人

 理由は統計の取り方が違うからだ。厚労省は、医師の死亡診断書に基づいて集計している。だが遺体発見時には、自殺か他殺か事故か、医師にも分からない場合がある。そんな時には「死因不明」として報告する決まりになっている。しかし最初は死因不明でも、捜査の結果、自殺と判明することもある。その場合、警察側は、発見日に遡って自殺として集計する。冒頭に書いたように、数字がよく変わるのはそうした理由による。

 厚労省のほうも、医師から死因訂正の申請があれば、自殺に切り替える。ただし家族などからの申し出がない限り、面倒な手続きを自分からやろうという医師は少ない。

 また在留外国人の自殺を計上するかどうかの違いもある。警察の数字には、外国人の自殺者も含まれている。厚労省の数字は、日本国籍を有するものに限られている。とはいえ外国人の自殺者は少ない。上記の警察庁と厚労省の数字には、744人の差があるが、そのうち外国人は224人だった。残りの520人は、警察の捜査で自殺と判明したが、人口動態上は死因不明のままになっている日本人、ということになる。家族がいない独居老人やホームレスなどが、多く含まれているのかもしれない。

 ちなみに生命保険では、免責期間(通常は2~3年)内の自殺は保障の対象にならない(保険金が下りない)。だったら受取人としては、死因不明のままにしておいたほうが得と思うかもしれないが、保険会社は警察に確認を取る。余計なことは考えても仕方がないだろう。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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