コロナ禍でも注目 最新医療テクノロジー

サービス開始から1年が経過「5G」で医療はどう変わるか

写真はイメージ
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 第5世代移動通信システム(5G)のサービスが始まって1年が経過した。4K/8Kクラスの高精細の映像を、ほとんど遅延なく送ることができるので、デジタルトランスフォーメーション(DX)の中核技術として期待されている。中でも医療は5Gを積極的に生かせる分野のひとつとされている。

 真っ先に思いつくのは、言うまでもなく遠隔医療だ。すでに4G時代から、スマートフォンを使って救急車からの映像を病院に転送する実証実験が行われてきた。4Gの映像の解像度には不満があったが、5Gになって格段に向上し、実用レベルに達したため、今後はごく当たり前に使われるようになるはずだ。

 オンライン診療も期待が持てる分野である。患者と医師をスマートフォンなどでつないで、相手の顔を見ながら、通常の対面診療と同じように診察を行おうというものだ。
2011年に医師法が改正され、在宅患者への遠隔診療が広く認められるようになった。さらに昨年から、新型コロナ対策のひとつとして、大幅な規制緩和がなされた。

 しかし、4Gでは画質もさることながら、しばしば画面が固まったり音声が途切れたりすることが多く、本格的な普及には至らなかった。それらの問題が5Gによって一気に解消されるため、オンライン診療にシフトするクリニックや、自由診療によるサービスを提供するスタートアップなどが成長し始めている。

 もっとも、遠隔医療の本命は、内視鏡やカテーテルの検査・治療の遠隔支援だろう。千葉県松戸市の千葉西病院で稼働している「カテーテルスタジオ」の遠隔版をイメージすれば分かりやすい。

 マスコミなどで何度も紹介されているので、カテーテルスタジオをご存じの方も多いだろう。

 同センター内の6つの血管造影室から、検査や治療の映像がリアルタイムでスタジオの大型モニターに送られてくる。それをベテラン医師が見て、重要な局面に差しかかると、モニター越しに現場の医師たちに適切な指示を与える。これによって同病院は、全国でもトップクラスのカテーテル件数と成功率を上げている。

 5G時代には、同様のことを異なる病院間で行うことができるようになる。現在の高速光回線でもできないことはないが、通信の遅延が5Gと比べて大きいうえに、ケーブルや通信機器の購入と敷設に費用がかかるなど、技術的・金銭的な障壁が多い。しかし5Gの技術を使えば、それらの課題を一気に乗り越えることができる。

 ただし、制度的な課題をクリアするのに時間がかかるかもしれない。現行の制度では異なる病院間でのこうした遠隔支援に対して、健康保険からは報酬が支払われない。この問題が解決し、適切な報酬が支払われるようになれば、一気に普及するだろう。全国のカテーテル医療や内視鏡医療の質が上がると同時に、地域格差の解消にも役立つはずである。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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