新型コロナ禍で何が起きているのか

「小児科」26.6%、「耳鼻科」21.7%と医療費が大激減

「小児科」と「耳鼻科」の患者が大幅減
「小児科」と「耳鼻科」の患者が大幅減

 昨年度の1月までの国民医療費は、2019年度(19年4月~20年3月)の同期比で4%減少した(厚生労働省「医療費の動向」調査)。診療所の外来(在宅、遠隔を含む)に限れば、もっと影響が大きく、患者数で10.3%減、医療費で7.7%減だった。

 患者数は、第1波(4~5月)で前年比で20%以上減り、第2波(7~8月)、第3波(11~1月)で10%前後減った。ただしそれら以外での減り幅は小さく、とくに10月は1.5%減と、ほぼ前年と同じ水準に回復していた。

 第1波こそ心理的衝撃が大きかったため、受診を控える人が増えたが、それ以降はせいぜい1割減にとどまったことは注目に値する。「コロナを恐れて受診を控える人が増えれば、慢性疾患で重症化する患者が急増するのではないか」と危惧されていたが、その心配はなさそうだ。

■「皮膚科」「整形外科」への影響が少ない理由

 科目別では「皮膚科」と「整形外科」で、コロナの影響が少なかった。皮膚科は患者数が2・3%減にとどまった。昨年4月こそ14.2%減となったが、5月にはほぼ前年並みに戻し、8月にはプラスに転じ、10月は前年比8.6%増と活況を呈していた。整形外科もほぼ同様の動きを示している。昨年4月、5月期こそ20%ほど患者が減ったが、第2波の7月を除けばほぼ前年並みに回復した。内科系の科目は、処方箋を長めに書いてもらうことで通院回数を減らすことがでるが、肌の痒みや痛み、関節や筋肉の痛みなどは直接的な治療が必要なため、回数を減らしにくいという側面もあったと思われる。

 反対に壊滅的とも言える影響を受けたのが、「小児科」と「耳鼻科」(耳鼻咽喉科)であった。小児科では、1月までで患者数が32・3%減り、医療費(=診療所の収入)が26.6%減った。とくに第1波の落ち込みが際立っていた。昨年5月の患者数はなんと前年の半分以下(51.1%減)だった。その後も回復は進まず、10月になってようやく回復の兆し(それでも14.1%減だった)が見えたかに思えたが、11月以降は再び前年を大きく下回った。

■インフルなど子供の感染症激減が理由か

 第1波で患者が減ったのは、緊急事態宣言の心理的インパクトが大きかったこともあっただろうが、インフルエンザをはじめとする「子供がかかりやすい感染症」が激減したことが響いたからだと考えられる。実際、2020年3月(すでにインフル患者がほとんどいなくなっていた)の時点から、小児科では患者数が大幅に減り始めていた。小中学校のプールが閉鎖されたため、夏に多い咽頭結膜熱(プール熱)がほとんどゼロになったし、ほかにも手足口病、ヘルパンギーナ、RSウイルス感染症、ムンプスなどが軒並み大幅に減った。加えて感染性胃腸炎も過去10年間で最低の水準だった。つまりコロナ対策によって、子供の細菌性やウイルス性の病気が劇的に減ったため、小児科の需要も大幅に減ったというわけである。

 耳鼻科は患者数が23.9%減り、医療費が21.7%減った。こちらも小児科とほぼ同じで、昨年3月から患者が急減し始め、今年1月まで回復していない。風邪などでは耳鼻科を受診する患者も多いので、小児科と同じような影響を受けたと考えられる。加えて昨年春は、スギ花粉が例年と比べて非常に少なかった。しかも6月までは在宅勤務の人が多かったおかげで自動車通勤が激減し、都会でも空気が驚くほどきれいになった。呼吸器系のアレルギー患者が減ったこともあり、耳鼻科の需要が大きく減ってしまったのである。

 つまり、小児科と耳鼻科に関しては、新型コロナの直接的な影響で患者を減らしたというよりは、コロナ対策が徹底されたことによる、ある種の2次的“被害”を被ったと言えそうである。

 しかし花粉症はともかく、子供の感染症が減ったことを手放しで喜んでいいのか、難しいところである。子供は普段から病原体にさらされることによって免疫力が鍛えられるのだが、そういう機会が図らずもコロナによって奪われてしまったことになる。逆にコロナが収束した後、小児科や耳鼻科の需要が急増することも心配される。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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