データが語る 令和高齢者の実像

「健康寿命」とは「要介護年齢」ではない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「高齢者」の年齢を引き上げるのはいいとしても、本当に70歳まで、さらに75歳まで、働き続ける体力や気力はあるのでしょうか。

 こうした議論で、必ず引き合いに出されるのが「健康寿命」です。厚生労働省によれば、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされています。最新の数字(2019年)は、男性72.68歳、女性75.38歳でした。

 ところがマスコミは「健康寿命=要介護年齢」といった主張を繰り返しています。つまり健康寿命を過ぎれば、多くの人が要介護状態になると言っているのです。要介護の前には、要支援状態、つまり要介護ほどではないが、日常生活に介助が必要な状態があります。それも入れると、男性では70歳、女性でも72~73歳で、もう仕事どころではなくなってしまうはずです。

 ところが内閣府の高齢社会白書には、「特に65~74歳では心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めている」と書かれています。まったく矛盾しています。どちらが正しいのでしょうか。

 感覚的には、高齢社会白書のほうが当たっています。70代前半で要支援や要介護になった人が、何人いるか数えてみてください。私の場合は、親戚、友人・知人、ご近所を全部合わせて2人だけです。1人は末期がんの男性で、最期の3カ月間を、自宅で在宅看護・介護を受けていました。もう1人は脳梗塞の後遺症で、リハビリを兼ねてデイサービスに通っています。しかしほとんどの70代は、男性も女性も元気で、要介護にはほど遠い状態です。

 具体的な数字も出しておきます。厚生労働省の介護保険事業状況報告(令和2年)をもとに、年齢・性別の要介護者(要介護1~5)の割合を計算すると、次のようになります。

年齢    男性/女性
65~69歳 2.8%/1.6%
70~74歳 4.4%/3.6%
75~79歳 10.7%/8.0%

 男性では、60代のうちに要介護になるのは36人に1人の割合に過ぎません。70代に入っても、74歳までは要介護は少なく、75歳を過ぎてようやく1割を少し超える程度です。また女性は60代での要介護リスクはかなり低く(62人に1人)、74歳でも大半が元気であることが分かります。

 つまり、高齢社会白書のほうが正しいということです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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