データが語る 令和高齢者の実像

カロリー制限でアンチエイジングは可能か? 動物実験では相反する結果も

アカゲザルの実験では相反する結果に
アカゲザルの実験では相反する結果に

 アンチエイジングには、無数の流派がありますが、大きくは「食事系(サプリメントなどを含む)」と「運動系」の2つに分けることができます。

 腸活(乳酸菌や食物繊維など)や肝活(アルコール制限など)は、食事系に入ります。眠活(睡眠の改善)は、運動系と拡大解釈できます。肺活(呼吸法の改善など)も運動系に入れていいでしょう。どちらでもないのは、脳活(脳トレ)やメン活(メンタルトレーニング)などに限られます。

 食事系の基本は「カロリー制限」です。マウスやラットの摂取カロリーを、通常の7割程度に減らすと、寿命が大幅に伸びることが知られています。アメリカのウィスコンシン大学は、約100匹のアカゲザルを2つのグループに分け、一方のグループには好きなだけ食べさせ、もう一方にはカロリー制限を行って、20年以上も飼育し続ける実験を行いました。その結果、カロリー制限を行ったサルのほうが、老化が遅く、平均寿命が長いことが示されたのでした(2009年)。日本で古くから言われてきた「腹八分目(実験は七分目)」が、科学的に実証されたと言っていいかもしれません。

 ところがその後、アメリカの国立老化研究所から、ウィスコンシン大学と同様の研究の結果が出てきたのですが、こちらはカロリー制限による長寿効果は見られなかったと結論づけています。

 両者の違いは、食事内容にありました。ウィスコンシン大学では、人工的に調節されたエサに、ビタミンやミネラルなどを足して与えており、国立老化研究所のほうは天然食材を食べさせていました。

 つまり普通の食事をしている限り、腹七分目程度では、アンチエイジング効果は得られにくいことになります。人工的なバランス栄養食を少なく食べて、適切なサプリメントを取っていれば、老化を遅らせることができそうですが、それを毎日、数十年にわたって続けるのは、まず不可能です。

 それ以前に、カロリーを3割減らせというのが、大半の人にとって無理な相談です。マウスやサルだって、おりに入れられて無理やりカロリー制限をさせられていたに過ぎないのです。

 そこで、カロリーの総量規制が無理なら、成分調整でなんとかしようという発想の転換が生まれてきます。タンパク質、脂質、炭水化物を3大栄養素といいますが、その中のどれかを減らしてみたら、老化を防げるのではないか、という考えです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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