ワンランク上の健診「脳ドック」(4)頸動脈エコーで「一過性脳虚血発作」のリスクを知る

脳ドックのメニューには必ず「頸動脈エコー」が含まれている
脳ドックのメニューには必ず「頸動脈エコー」が含まれている

 一般的な脳ドックのメニューには、必ず「頚動脈エコー」が含まれています。超音波装置を使って、頚動脈の動脈硬化をチェックする検査です。

 頚動脈は、首を通って頭に血液を送るための動脈で、首の左右に1本ずつ通っており「総頚動脈」とも呼ばれます。左右の総頚動脈は、それぞれ顎の下あたりで「外頚動脈」と「内頚動脈」に枝分かれします。外頚動脈は顔や舌の筋肉に、内頚動脈は大脳に血液を送ります。

 動脈硬化はその分岐部分で進みやすく、特に内頚動脈側にプラークと呼ばれるコレステロールのかさぶたができると「閉塞性血管障害」や「アテローム性脳梗塞」のリスクが高くなってきます。

 プラークによって血流が一時的に妨げられると「一過性脳虚血発作(TIA)」が引き起こされます。急に片側の手や足に力が入らなくなったり、ろれつが回らなくなったり、目が見えにくくなったりといった症状が現れますが、しばらくして血流が回復すると、元に戻ります。しかしそれは、もっと深刻な脳梗塞の前触れですから、もしTIAと思われる症状が出たら、できるだけ急いで病院に行ったほうがいいでしょう。

 プラークが剥がれて破片が散ると、血流に乗って脳の奥のほうの血管を塞いでしまいます。それがアテローム性脳梗塞です。どこが詰まるかによって症状や重症度はさまざまですが、すぐに治療を開始しないとさまざまな後遺症が残ります。

 頚動脈エコーは、総頚動脈から内頚動脈にかけての動脈硬化とプラークの様子をリアルタイムで映像化するので、TIAやアテローム性脳梗塞のリスクを評価できるのです。

 脳ドックは脳梗塞やくも膜下出血のリスクを評価するのに有効で、それに基づいてさまざまな対策を講じることができるようになります。しかし完璧というわけではありません。脳梗塞の約20%は、通常の心電図検査では見つけにくい不整脈が原因の「心原性脳梗塞」、約15%は「潜因性脳梗塞」と呼ばれる、原因不明のものだからです。さらに、脳出血(脳内の細い血管が切れて出血する病気)のリスク評価も難しいのが現状です。

 また、中高年の不安の種である「認知症」の早期発見やリスク評価にはほとんど役に立ちません。そのため近年、「認知症ドック」を始める病院も増えてきています。 =この項おわり

(永田宏・長浜バイオ大学メディカルバイオサイエンス学科教授)

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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