健康格差は年収格差

足立区vs港区 低所得者が短命とは限らない

足立区役所
足立区役所(C)日刊ゲンダイ

 平均余命を見ると、90歳以上で足立区と港区の逆転現象が見られます。平均余命とは、ある年齢に達した人が、平均してあと何年間生きられるかを数値化したもので、平均寿命は0歳児の平均余命のことです。

<表>は足立区と港区の5歳階級別の平均余命をまとめたものです。たとえば足立区の55~59歳の男性は、平均するとあと25.9年間生きられます。また港区と比較すると、男女とも1年前後も短いことが分かります。〈表〉には載せていませんが、それよりも若い世代でも、余命差はほぼ同じです。ところが高齢になると差が少しずつ縮まっていき、90~94歳で比較すると、男性は0.8歳、女性では0.2歳、足立区が上回っています。

 実は同じ現象が、他区でも見られます。低収入の北区や葛飾区などと、高収入の渋谷区、目黒区などの平均余命を比較すると、やはり90歳以上では、前者のほうが長くなっているのです。

 つまり「所得が低ければ寿命が短い」というような単純な話ではないということです。それに港区民は所得が多いといっても、住居費をはじめ生活費全般が高めです。足立区は相対的に生活費が安いため、所得格差ほどの生活格差はないはずです。

■90歳以上なら足立区の方が長寿

 足立区の現役世代の平均余命が低いのは、単身者の死亡率が高いからかもしれません。現役単身者は、妻帯者らと比べて、死亡率が2倍から3倍も高いことが知られています。実は港区のほうが、現役単身者の割合が多いのですが、健康意識が高く、運動や食事・サプリメントなどに充てる経済的余裕も十分にある人が多いのでしょう。足立区の低所得の現役単身者には、そんな余裕がないため、途中で早死にする人が多いわけです。そのため70代前半までは、区の平均余命が、高所得区よりも1~2歳短くなっているのです。

 一方、家族は長寿のカギです。特に低所得区には、子供や孫と同居している高齢者が大勢います。低所得区で長寿を全うしている人の多くは、多世代世帯に暮らしていると思われます。低所得区は、住民が二極化していると言っていいでしょう。低所得で不健康な生活を送る単身者と、やはり低所得だが家族と健康に恵まれた人たちです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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