人生100年時代の健康法

ゲノム編集で作られたポリフェノール入り農作物が出回る?

いずれは…
いずれは…(C)日刊ゲンダイ

 昨年、中国で「デザイナーベビー」が誕生したというニュースが、物議を醸しました。「ゲノム編集」と呼ばれる技術を使って、エイズウイルスに感染しないように遺伝子を書き換えた双子が生まれたというのです。

 今やその気になれば、数学が得意な遺伝子や筋肉を増強する遺伝子なども、安全性はともかく技術的には簡単に受精卵に組み込むことが可能になりつつあります。世界中から非難され、中国政府もデザイナーベビーの禁止に動いています。しかし健康分野では「デザイナーフーズ」が脚光を浴び始めています。

 デザイナーフーズは、もともと1990年代にアメリカ国立がん研究所が始めたプロジェクトのひとつです。野菜や果物に含まれるファイトケミカル(今でいうポリフェノール類)の量や作用を調べ、それを基にがん予防につながる食事を提案しようとしたのです。

 予防効果がもっとも高いのがニンニクで、次いでキャベツ、ショウガ、大豆、ニンジン、セロリなど。それらを食べれば、がんの心配が減るだろうと考えたのでした。しかし植物に含まれるポリフェノールは、実感できる効果を得るには少な過ぎたようです。そのため2000年代に入って、すっかり下火になってしまいました。

 それがゲノム編集技術の登場によって一変したのです。要は抗がん効果の高いポリフェノールを大量に作り出す農作物を、ゲノム編集で作り出せばいいわけです。

 でもそんなことをしなくても、サプリメントで十分ではないか。そんな疑問も湧いてきます。ところがポリフェノール類はサプリでは体に吸収されにくく、食物として取るほうがずっと効率的といわれているのです。だから「野菜や果物を、がんやその他の病気に合わせてデザインしてしまえ」という発想になったわけです。それが最新の「デザイナーフーズ」として、世に出ようとしているのです。

 法律的にどうかはさておき、ポリフェノール類は野菜の苦味・渋味の成分です。ですからデザイナーフーズが普及するようになれば、我々の食事は今よりも苦い・渋いものになるでしょう。つまり現代版「良薬口に苦し」といった話になりそうなのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

関連記事