データが語る 令和高齢者の実像

水道水の塩素消毒、冷蔵庫普及…生活環境の向上が寿命を延ばした

写真はイメージ
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 健康や寿命を左右するのは、ズバリ言って、われわれを取り巻く生活環境です。これには電気・ガス・水道をはじめとする社会インフラや、電車・自動車などの移動手段、住宅構造、家電製品、そのほか仕事に使う機械類までもろもろを含みます。過去数十年にわたり、それらが向上することによって、われわれの健康と寿命は驚くほど延びてきました。

 たとえば水道水(上水)の塩素消毒です。日本では1880年前後から全国各地で水道がつくられるようになり、1920年代には塩素消毒が試験的に始まりました。日本軍のシベリア出兵に合わせて、毒ガス用に製造された塩素ガスが結局は使われず、大量に余ったため、水道の消毒に使われたのが始まりとされています。ただし、塩素消毒が本格的に広まったのは戦後、GHQの指示によるものです。

 その結果は劇的でした。汚い水は、胃腸炎の原因になります。実際、胃腸炎は47、48年の死因第3位でした。それが年々順位を落とし、66年を最後に死因ワースト10から姿を消しました。

 胃腸炎の犠牲になったのは、主に乳幼児でした。平均寿命は乳幼児の死亡率に大きく影響を受けますが、それが急激に減ったことで大幅に延びました。47年には男性50歳、女性54歳だったのが、66年にはそれぞれ68歳、74歳になったのです。

 51年から80年にかけては、脳卒中(脳血管疾患)が死因の1位でした。脳卒中の主な原因は高血圧であり、塩分摂取が大きな要因であることが知られています。しかし日本では、食品の保存のために昔から塩が大量に使われてきました。

 ところが52年に家庭用冷蔵庫が発売され、全国に普及するようになると、国民1人当たりの食塩摂取量が低下し始めたのです。冷蔵庫の普及率は78年には99%に達し、食料の冷凍輸送や業務用冷蔵庫などの急速な普及とあいまって、大きな減塩効果を発揮したのです。分かっているだけで、75年から87年までに、1日当たりの摂取量が14.5グラムから11.8グラムに低下したのでした。

 つまり、生活環境が変化すると、それにつれてあまり意識しないまま食生活や行動が変化し、健康や寿命に影響してくるわけです。ですから、現在進行中のDX(デジタルトランスフォーメーション)や働き方改革も、ジワジワと効いてくるはずです。

 なお、10月20日付掲載の記事で、一般社団法人「食・楽・健康協会」および「ロカボダイエット」に関する記述に事実誤認・誤解などがありました。協会関係者の皆さまには、心よりおわび申し上げます。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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