データが語る 令和高齢者の実像

気圧や揺れが影響する「高層階症候群」は本当にあるのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 建築と健康の関係で、対策が立てられているのは「室温」と「換気」ぐらいです。しかしかなり以前から、超高層ビルやマンションが健康に及ぼす影響について、さまざまなウワサや臆測がささやかれてきました。主に高層階の住民からの訴えなので、「高層階症候群」などと呼ばれています。

 耳に違和感を覚える、頭痛に襲われやすくなった、という人が多いようですが、それらは「気圧」の影響と考えられています。気圧は10メートル当たり1hPa(ヘクトパスカル)減りますから、40階建ての超高層マンションの最上階(約150メートル)は地上から15hPaも低いことになります。台風などの気圧変化で自律神経が乱れ、頭痛や喘息発作が起こるのを「天気病」と言います。それと同じ現象でしょう。

 同様に、関節痛や関節リウマチも天気と関係しており、気圧が低下すると痛みが増すといわれています(天気痛)。高層階の住民の中にも、関節の痛みを訴える人が多いといいますから、やはり気圧と関係しているのかもしれません。

 他には子供の精神的な発達に悪影響を及ぼすとか、高層階の子供は学校の成績が伸びないといったウワサが散見されますが、支持者は少ないようです。しかしインターネットで海外の書き込みなどを調べてみると、高層ビルの上階は精神的なストレスが大きいため、うつなどの原因になるといった意見が少なくありません。

 日本固有の問題としては、建物全体の「揺れ」があります。地震でなくても、強風で建物が揺れて船酔いのような症状が出るという人がいます。また知覚できない細かい揺れが、健康にマイナスだという意見もあります。日本の高層建築は、耐震のために柔構造を採用しているため、海外の建築と比べて揺れやすいのです。

 ただし、高層階症候群を支持する科学的な論文は、国内でも海外でもほとんど見当たりません。しかし否定する論文もほとんどありません。というのも、こうした問題を真面目に取り上げる研究者が少なかったからです。研究手段も限られていました。

 しかし、2~3年前から風向きが変わってきました。VR(バーチャルリアリティー)を使った研究が可能になってきたからです。気圧・気温・湿度などを調節できる部屋とVRを組み合わせた仮想高層ビル実験室が、世界の大学でつくられ始めています。今後は高層階と健康の関係が科学的に解明されていくことでしょう。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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