上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓移植はドナー不足…「再生医療」の進歩に期待したい

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 未分化細胞であるiPS細胞は、心筋細胞に分化する過程でがん化する可能性があるなど、まだ課題が残っているのは確かです。しかし、研究や環境整備に莫大な費用をつぎ込むのなら、移植の発展よりも、再生医療の方が可能性を感じるのです。

 人体にひとつしかなく替えが利かない心臓を他から移植した場合、拒否反応を防ぐために免疫抑制剤を使わなければなりません。ただ、免疫抑制剤の長期使用は他の臓器に影響を与えますし、動脈硬化も促進させます。たとえば、5歳の時に心臓を移植して、その後10年間にわたって免疫抑制剤を使い続けなければいけなかったとすると、年齢は15歳なのに、血管は60歳くらいの状態まで傷んでしまうケースもあるのです。そうなると、ある時点でまた次の心臓治療が必要になってきます。これは、患者さんにとっても非常に大きな問題です。莫大な費用とリスクをかけて移植を敢行し、その場の命をつなげたとしても、それから先の人生で深刻で大変な状況が続く可能性が小さくないのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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