未分化細胞であるiPS細胞は、心筋細胞に分化する過程でがん化する可能性があるなど、まだ課題が残っているのは確かです。しかし、研究や環境整備に莫大な費用をつぎ込むのなら、移植の発展よりも、再生医療の方が可能性を感じるのです。
人体にひとつしかなく替えが利かない心臓を他から移植した場合、拒否反応を防ぐために免疫抑制剤を使わなければなりません。ただ、免疫抑制剤の長期使用は他の臓器に影響を与えますし、動脈硬化も促進させます。たとえば、5歳の時に心臓を移植して、その後10年間にわたって免疫抑制剤を使い続けなければいけなかったとすると、年齢は15歳なのに、血管は60歳くらいの状態まで傷んでしまうケースもあるのです。そうなると、ある時点でまた次の心臓治療が必要になってきます。これは、患者さんにとっても非常に大きな問題です。莫大な費用とリスクをかけて移植を敢行し、その場の命をつなげたとしても、それから先の人生で深刻で大変な状況が続く可能性が小さくないのです。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」