「不登校」「ひきこもり」を考える

なぜ、名カウンセラーより親の「傾聴・共感」が大事なのか?

写真はイメージ(C)iStock

 これまでお話ししてきた男性Aさんの場合、とても繊細な性格で、親を喜ばせたい、悲しませたくないといった気持ちが幼い頃から強く、親に「子育ては順風満帆」と信じ込ませるほどに、子どもながらに自分を殺して応え続けられる器用さもありました。そうしたことが相まって、手のかからないいい子として過ごしていたのでした。もちろん、そのまま本人と親の意向が合致して、何の問題もなく順調に育っていくというお子さんも世の中にはたくさんいます。

 一方で、Aさんの場合には、高校に入りその生き方に限界が生じてきたにも関わらず、膨れ上がった苦悩の感情を心が処理しきれず溢れかえり、頭だけは「もっと頑張りたい」と願ってはいても、心と体がついてこられなくなり、ついには不登校やひきこもりといった形で避難するだけで精一杯だったというわけです。

 では、どうすればAさんは「感情不全」に陥らずに済んだのでしょうか。それは、Aさん自身がひとりで溜め込んでいた本音の気持ちを、誰かに深く共感してもらいながら、心の底から思う存分、気の済むまで話すことだったと言えるでしょう。ひとりで遊んでいても味気ないように、人は大切な人と分かち合うことで、その喜びを心から深くまで堪能できます。また、大切な存在を失った時には仲間とその悲しみを分かち合うことで心の底から悲嘆した結果、そのつらさを乗り越えられるように、人は深い感情を感じるには誰かに話し、聴いてもらうことが不可欠な動物です。

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最上悠

最上悠

うつ、不安、依存症などに多くの臨床経験を持つ。英国NHS家族療法の日本初の公認指導者資格取得者で、PTSDから高血圧にまで実証される「感情日記」提唱者として知られる。著書に「8050親の『傾聴』が子供を救う」(マキノ出版)「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)などがある。

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