ガイドライン変遷と「がん治療」

胃がん<5>術後補助化学療法は第2版で「エビデンスに乏しい」

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ステージⅡとⅢの胃がんでは、再発を予防する目的で、手術後に補助化学療法を行います。しかし「胃癌治療ガイドライン」の初版が出た2001年の時点では、予防効果が確かめられた抗がん剤はありませんでした。

 第2版(04年)になっても状況に変化はなく、「再発予防を目的として、種々の単剤、多剤併用化学療法の臨床試験が行われてきたが、現在まで確実な延命効果を証明したエビデンスは乏しい」と書かれています。さらに補助化学療法の適応条件は、「臨床試験においてのみ実施すべき」となっています。ちなみにその当時は「がん放置療法」が全盛期で、とりわけ抗がん剤は「かえって寿命を縮める」と嫌われていました。補助化学療法には風当たりが強い時代で、抗がん剤では再発を予防できないという意見もよく聞かれました。

 しかし06年に、S―1(エスワン:TS―1ともいう)という薬が有効であることが示されました。大規模な臨床試験の結果、手術だけの5年生存率が61・1%だったのに対し、S―1投与群では71・7%だったのです。以後、これを使った補助化学療法が胃がんの術後の標準治療になり、今日に至っています。

 S―1は「テガフール」「ギメラシル」「オテラシルカリウム」という3種類の薬を配合したもので、カプセルや錠剤として服用できます。

 これを1日2回、4週間連続で服用し、その後2週間休薬。合計6週間を1クールとし、1年間続けるのです(S―1単独療法)。入院の必要はなく、通院のみの治療となります。

 抗がん剤というと、「嘔吐」「口内炎」「下痢」「脱毛」などといった副作用を連想してしまいます。骨髄抑制といって、白血球数が減って感染症にかかりやすくなることもありますし、肝機能障害、腎機能障害もよく起こります。副作用が強く出てしまうと、患者の体力がもたず、治療の中断を余儀なくされることも少なくありません。

 S―1にもそうした副作用がありますが、他の抗がん剤よりはずっと弱いといわれています。また副作用を抑える薬も種類が増えてきました。それでも1年間にわたって飲み続けるのですから、それなりの覚悟は要りそうです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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