日記がコロナ感染対策に 米国では看護師のストレス対策にも活用

ワクチン接種は進むが…(C)共同通信社

 コロナ感染で高熱が出て、呼吸が苦しくも入院はさせてもらえない……。ワクチンを打っても感染してしまうブレークスルー感染も怖い…。こんな状況を考えると、少しでも普段から自衛でできる感染の免疫力を高い状態を保っていたい。エビデンス(科学的根拠)があり、かつ、すぐに実践できる方法はないものだろうか?

 東京歯科大学准教授の宗未来医師が勧めるのが、「日記を書く」という健康法だ。「たった3回書くだけ」というこの方法が、ウイルスに対する感染免疫力を高め(HIVやヘルペスウイルスで証明)、ワクチンの反応率すら高める(B型肝炎ウイルスで証明)ことを、厳密な医学的検証試験(RCT)で示されているのである。

「そんなことで?」と思う人は多いだろう。『日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる「感情日記」のつけ方』(CCCメディアハウス)の監修者でもある宗医師は、「最初は半信半疑でしたが、この感情日記が、他にも薬では完全に治らないような多くの健康問題にさえ役立つというエビデンスすら存在するのです」と述べる。

「日記を書く」とは言っても、ただ日常生活の出来事を書くものではない。欧米では『感情筆記』と呼ばれ、日常で動揺したり感情的になったことや、これまでの人生でトラウマ的であった出来事、それも人に詳しく話したことがないほどつらかったことについて、本音の思いや感情を書く。

「ロンドン大学留学中に心理医学の権威である教授から聞いたことで驚いたのは、外科手術を受ける患者が、術前に1日15分の「感情筆記」を3日間実施したところ、傷の治りのスピードが、感情を排して出来事のみを書いたグループに比べて、倍に早まったという厳密な医学的検証試験の結果でした」

 傷の回復が早まるという生体現象は、まさに免疫反応の改善そのものを意味するため、宗医師は非常に興味を持ったという。医学的データーベースでいろいろな研究を調べてみると、関節リウマチや喘息の症状改善効果など免疫関連の疾患に加え、多彩な研究が施行されていた。

「中には、終末期がんの痛みの緩和効果や、PTSDへの自助効果などにさえ、メタ解析という現代医学で最も信頼性が高いと言われる研究手法で行われたものまで示されていました。感情筆記が、がんの痛みを約35%減少させるという報告すらなされていたのです」

 血圧低下、慢性痛や不眠の改善などの医学的効能も報告されており、英国の総合診療医学雑誌では、「より効率的で、気軽にできる健康法」としても感情筆記が紹介されていた。

「私自身も、感情筆記を勧めている中で、薬で血圧が下がらない高血圧の患者さんの血圧が落ち着いたり、慢性痛で痛み止めを毎日飲み続けていた患者さんが痛み止めを大幅に減らせたりといったりということを経験しています。高血圧患者の半分程度は、降圧薬だけではきれいに血圧が下がりにくいと言われていますし、頭痛薬(NSAID)を2週間を超えて毎日飲み続けると、痛みの感度が薬のせいで反動的に高まってしまう薬物乱用頭痛という現象も広く知られています。感情日記は、非薬物的なアプローチとしても期待されています」

 また、歌手のレディー・ガガさんの活動休止理由としても知られている繊維筋痛症や、月経痛や子宮内膜症関連痛といった女性の慢性骨盤痛症候群、過敏性腸症候群などの反復性腹痛といった現代医学では機序や治療が確立していない疾患の症状改善に対しても感情日記は医学的検証試験で効果が示されているという。

本音の感情をあえて書き出す「感情日記」

 感情筆記のポイントは、出来事そのものだけでなく、その時の本音の感情をあえて書き出すところにある。ネガティブな感情であっても、本音であればありのままに感じきれば自然と消えていくが、つらすぎるからと目を背けていると、押し殺された本音の感情は、自己嫌悪、嫉妬、虚無、恨みといった二次的なダミー感情を増幅させる。このダミー感情は脳が捏造した、ノイズのようなものだ。自然には消えず、頭の中の苦悩を膨らませるだけでなく、副腎からのストレスホルモンの分泌を過剰にし、自律神経や免疫反応に影響を与えるのだという。

 欧米では、かなり早い段階から感情筆記と免疫力についての研究もなされ、免疫反応の活性化の指標として、免疫細胞のひとつであるリンパ球が、感情筆記を書いた群は、そうでない群に比べて、免疫反応が活性化していることなども確認されている。

 コロナで蓄積されたストレスを、感情筆記で和らげられれば……。宗医師は、日本人に浸透しやすいように「感情日記」という呼び方を使用。コロナ禍医療の最前線で消耗しきっており、ストレスを溜め込んでいる医療スタッフに対しても、「感情日記」が有効であると薦めており、効果を感じてくれているという人も少なくないという。

「全米の優良病院ランキングで21年間連続で全米ナンバーワンにも輝いたジョンズ・ホプキンズ大学の付属病院では、最先端医療に携わる看護師のために感情日記プログラムが導入され、効果を発揮したと報告されてます。実際、当時は看護師の3分の2が不眠、2分の1がバーンアウトを自覚、4分の1がうつ状態にあり、それが休職や離職の要因となっていたそうで、病院全体に〝安くて手軽なケア〟として正式に導入されました。日々のプレッシャーや不安、緊張感などを言葉で表現することがストレスの緩和に役立ち、結果として離職率の低下、職場環境の改善、看護の質の向上にも結びついそうです」

 感情筆記は、手書きでもタイピングでも効果は同じと証明されており、気持ちが表現できればどちらでもいい。文章になっていなくてもいいので、つらかったときの本音の感情を呼び覚ましながら、可能な限り深く掘り下げて書くのがポイント。コロナとの付き合いはまだまだ長く続きそうだ。心と体のケアの両面から、感情日記で乗り越えていきたい。

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