血液型と病気

血液型を決める「糖鎖」が医学分野で熱い注目を浴びている

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 1月からスタートした本連載も最終回となりました。ABO血液型と感染症、がん、血栓症の関係で、現在までに分かっていることを紹介してきました。血液型と病気というテーマは、世間では「キワモノ」的な扱いを受けていますが、いかがだったでしょうか。

 血液型を決めているのは「糖鎖」と呼ばれる物質です。糖鎖は単糖と呼ばれる基本的な化学物質が、鎖状に連結してできたもので、栄養学的には炭水化物と同義語です。生体のエネルギー源という役割のみが強調されてきたため、いまやダイエット信奉者から目の敵にされています。

 ところが医学分野では、もっともホットな研究分野として注目を集めているのです。さまざまな種類の糖鎖が全身の細胞膜に発現しており、細胞同士のコミュニケーションや、機能調節に使われていることが分かってきたからです。

 とくに、がんとの関係が重視されています。細胞ががん化すると、表面の糖鎖が変化したり、特定の糖鎖が大量に発現することがあります。そのため、さまざまな糖鎖が腫瘍マーカーとしてすでに使われています。

 中でも膵臓がんや胆のうがんでは、血液型糖鎖とよく似た糖鎖が増えることが分かっています。また肺がんなどでは、A型でない人でもA型の糖鎖が発現することがあることも証明されています。疫学的にも、がんと血液型には深い関係があることが次々と実証されているところです。

 病原体(細菌やウイルス)が人体に感染するためには、人の消化管や気管の細胞表面の糖鎖を手がかりにしていることも分かってきました。病原体の中には血液型糖鎖をターゲットにしているものが多く、しかも血液型の違いによる化学構造の違いを認識しているものもいます。血液型によって感染リスクが異なる病気があることも、いまでは広く認められています。

 血栓症については、O型だけが「フォン・ヴィレブランド因子」が少ないことが、昔から知られていました。その理由はまだ不明な点が多いですが、多くの疫学的調査から非O型と比べてO型では血栓症のリスクが低いことが分かっており、臨床医の間にも知識が浸透し始めています。

 こうした知見は、まだ病気の予防や治療にはほとんど反映されていませんが、いくつかの試みが始まっています。また機会があれば、それらの成果も含めて新たな知見を紹介していきたいと思っています。=おわり

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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